新たに開示された証拠で確定判決を支える根拠に疑問符が付けられた。検察側は捜査の問題点を精査し、再審開始を認めた司法判断を重く受け止めるべきだ。
国や法曹界は、審理の長期化を改め、冤罪(えんざい)を防ぐ仕組みを急いで整備しなければならない。
滋賀県日野町で1984年、酒店経営の女性が殺害され手提げ金庫が奪われた強盗殺人事件で、無期懲役が確定し、服役中に病死した元受刑者の遺族が申し立てた第2次再審請求に対し、大阪高裁は再審開始を認める決定をした。
元受刑者を犯人とした確定判決の事実認定に「合理的な疑いが生じた」というのが理由だ。
元被告らの死後に遺族らが請求した「死後再審」開始決定が確定すれば、死刑や無期懲役が確定した戦後の重大事件で初めてだ。再審公判が行われれば無罪判決が出るのはほぼ確実とされる。
司法が「疑わしきは被告の利益に」の原則を再審請求の審理でも適用し、無罪への道を開いた点で、意義は大きい。
高裁が重視したのは、実況見分の写真ネガなど第2次再審請求で新たに開示された証拠だった。
捜査書類には、発見現場の実況見分で元受刑者が被害者を模した人形を用いて遺体を遺棄した様子を再現したと記載されていた。
ところが、新たに検察が開示したネガなどからは人形を用いずに再現していたことも判明した。
高裁は、人形を持った状態のみを取り上げた捜査書類の信用性は認められないとし、開示されたネガなどを「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と断定した。
立ち会った警察官らによる誘導の可能性を含め、再現の任意性に疑問を差し挟む余地が生じたとした判断は重い。
今後の焦点は、検察が最高裁に特別抗告するかどうかだ。
検察は捜査の信用性に疑問を呈した高裁判断に真摯(しんし)に向き合い、異議を申し立てるべきではない。
今回の審理で問題視されたのは、証拠開示の判断が裁判官や検察側の裁量とされていることだ。
裁判員裁判では検察側証拠の一覧を弁護側が開示請求できるが、再審請求にはこの仕組みがない。日本弁護士連合会は、全面的な証拠開示の制度化を求めている。
元受刑者は自白を強要されたとして再審を求め続け、即時抗告審中の2011年に75歳で亡くなった。遺族は翌年、第2次再審請求を申し立てた。
それから10年以上が経過し、ようやく名誉回復の道が開いた。
他の事件の再審請求でも審理の長期化で当事者が高齢化し、死去した事例もある。
再審に関する刑事訴訟法の規定は70年以上一度も見直されていない。冤罪という深刻な人権侵害を繰り返さないためにも、再審制度の速やかな法改正が不可欠だ。