危機的な現状を深刻に受け止めなくてはならない。加速する少子化を食い止めるには、社会の在り方を早急に変える必要がある。

 2022年生まれの赤ちゃんの数(出生数)が、79万9728人と、統計開始以来初めて80万人を割ったことが、厚生労働省の人口動態統計の速報値で分かった。

 これまでの国の推計では、80万人を下回るのは33年と見込まれていたが、少子化は想定より10年以上速いペースで進んだ。

 死亡数から出生数を引いた人口の自然減は78万2305人で、過去最大の減少幅となった。本県では自然減(確定数)が初めて2万人を超える可能性がある。

 人口が減ると、働き手の減少や消費の鈍化を招き、経済規模が縮小する。医療や福祉、交通、消防といった生活に不可欠なサービスの質が低下し、地方で人口流出に拍車がかかる恐れがある。

 年金など社会保障制度の維持が困難になり、将来にわたって影響を受ける。手をこまねいているのではなく、社会全体で問題に向き合わなくてはならない。

 少子化の要因で指摘されるのは未婚者の増加だ。地方では女性が流出し、未婚男性が増えた。

 未婚者が増え続ければ、保育サービスの拡充や児童手当の支給といった子育て支援に力を入れても、その効果は限られる。

 女性の働く場を地方に増やして流出を防ぎ、結婚を望む人を支援するといった総合的な取り組みが欠かせない。

 未婚者増の背景には若年層の雇用が不安定なこともある。雇用改善や賃金上昇を図る必要がある。

 民間シンクタンクの分析では、女性の出生率はこの10年間で、正社員で上昇したものの、非正規職や専業主婦らで低下した。

 正社員女性を中心に、育児休業の取得率や給付金が上がり、産後も会社を辞めずに働き続ける人が増えたことは大きな成果だ。

 一方で非正規職や専業主婦は、正社員より育児支援が薄く、世帯収入も低いため、出産をためらうと考えられる。

 夫婦がともに正社員として働ける環境を整えることは、出生率向上の大事な要素だ。経済的な負担や不安から、子育てをあきらめる現状を変えねばならない。

 子育てなどで女性の負担が男性よりはるかに大きいジェンダーギャップの問題も改善したい。

 女性に偏っている家事や育児の負担を軽減し、男性が積極的に参画していくことが不可欠だ。それには長時間労働の解消など企業の取り組みが鍵を握る。男性の意識改革も促したい。

 少子化は若い世代や個々の家庭の問題ではなく、社会全体で力を合わせていくべき課題だ。その認識を共有するためにも、政府は予算を大胆に投じ、しっかりと旗を振らなくてはならない。