新潟をイメージして椿をモチーフにした高さ40センチ余りの花瓶を焼き上げた。佐賀県にある有田焼の名門窯を率いる15代酒井田柿右衛門さん(54)が先日新潟市を訪れた際、話を聞く機会があった
▼冒頭で紹介した花瓶は、柔らかい乳白色の地肌から深みのある赤い花が幾つも咲き誇る。作品を丁寧に説明する姿に誠実な人柄がうかがえた。今月21日から新潟伊勢丹で本県初の個展を開く
▼人間国宝だった先代の跡を継いで9年、伝統の技を守りつつ新たな境地を切り開こうと作品作りに励む。花瓶の上部から椿の花や葉を流れるように描いた新作の構図は15代ならではの試みだ
▼有田焼は日本で最初に作られた磁器として知られ、歴史的に本県との関わりも深い。江戸時代は一般に伊万里焼と呼ばれ、北前船で大量に運ばれた。当時の湊町新潟や金山を有した佐渡は経済力があり、伊万里焼の大きな消費地だったという
▼佐賀県立九州陶磁文化館には、日本陶磁協会新潟県支部理事を務め、地元の旧家などを訪ねて貴重な品々を収集した新潟市の故柴澤一仁さんのコレクションが収蔵されている。1100点余のコレクションの中には、12代柿右衛門の花瓶もある
▼約10年ぶりに新潟を訪れたという当代の柿右衛門さんは、個展の開催期間中に改めて来県する。県内の里山では、雪割草やカタクリが咲き始めるころだ。「カタクリの花はコーヒーカップの絵柄に似合いそうですね」と身を乗り出した。本県の花々と有田焼の新たな共演が楽しみだ。