国家的プロジェクトの発注者と受注者がもたれ合い、業界ぐるみで不正に利益を分け合う構図が浮き彫りになった。事業に関わってきた官民がどう信頼を取り戻せるかが厳しく問われる。
東京五輪・パラリンピックの大会運営事業を巡る談合事件で、東京地検特捜部は、独禁法違反の罪で広告最大手の電通グループ、広告2位の博報堂など6社と、大会組織委員会大会運営局の元次長、電通元幹部ら4人を起訴した。
公正取引委員会は、起訴に先立ち、初めて広告業界を対象とした告発をしていた。国民生活に広範な影響を及ぼす悪質かつ重大な事案と判断したという。
地検の捜査はこれで終結との見通しだ。組織委元理事や企業トップら15人が起訴された汚職事件に続き、スポーツの祭典を巡る事件は大きな節目を迎えた。
起訴状によると、2018年2~7月ごろ、入札が実施されたテスト大会の計画立案業務、随意契約となった本大会などの運営業務で受注企業を決めた。談合規模は約437億円に上る。
開催準備に当たった主要メンバーの元次長と、電通の担当者がそれぞれの影響力で各社の意向を聞き、割り振りのための一覧表を作って受注調整を進めたという。
組織委は既に解散したが、公正な競争をゆがめる温床になったことへの責任は重い。
次長のみが立件された組織委に関し、大会関係者からは「トカゲのしっぽ切りだ。上層部も暗黙の了解があったはずだ」との批判が出ている。不正の闇は深い。
組織委には、業務の受注者になり得る電通ら広告会社やイベント会社からの出向者が多数在籍していた。組織委は、電通をスポンサー募集の選任代理店に選定し、大会の運営面も電通に頼った。
組織内のチェック機能は働かず、ガバナンス(組織統治)が欠如していた。
一方、電通は業界最大手で大規模イベントの運営ノウハウを持っていることを利用し、組織委とともに談合を主導した。
事件を受け、電通は外部有識者による調査検証委員会を設置した。厳正に調査し、社としてきちんと責任をとるべきだ。
岸田文雄首相は国会の質疑で、政府として第三者委員会設置などの対応を問われ、「まずは捜査や東京都の調査を注視し、明らかになった事実に対応する」と述べるにとどめた。
再発を防ぐためにも、巨額の公費を投じた国や都には改めて徹底した検証を求めたい。
国や自治体では、電通など起訴された企業の入札参加を認めない指名停止の動きが広がっている。
今後の大規模イベントの運営に懸念が出ているが、事件を教訓に業者と適切な距離を保つ契機とするべきだ。
