児童生徒の安全をいかにして守るか。事件を教訓に、不測の事態への備えを各学校で改めて確認してもらいたい。

 埼玉県戸田市の市立美笹中で、男性教員が侵入者に刃物で襲われ重傷を負う事件があり、殺人未遂容疑で17歳の高校生の少年が逮捕され、3日送検された。

 少年は期末試験中だった1年生の教室に侵入しようとし、試験監督の男性教員ともみ合いになった。教室前の廊下で取り押さえられた際に教員を切りつけ、腕や腹に複数の傷を負わせた。

 同校の卒業生ではなく、教員とも面識はなかった。事件当時、複数の刃物を所持し、調べに「無差別殺人に興味があった」「人を殺したらどうなるか、見てみたかった」などと供述したという。

 なぜそう考えたのか、捜査当局は動機の解明を進めてほしい。

 教室には多くの生徒がいて、危害が及ぶ恐れもあった。

 大惨事を防げたのは、重傷を負いながらも少年を確保した教員や、駆けつけた別の教員らの責任感ある行動が大きい。

 事件に精神的なショックを受けた生徒もいるはずだ。心のケアにも力を入れてもらいたい。

 今回の事件で改めて浮き彫りになったのは、学校への侵入者を防ぐ対策の難しさだ。

 事件当時、学校の正門は無施錠で、防犯カメラには少年とみられる人物が、正門から敷地内に侵入する様子が写っていた。

 学校の安全対策は、8人が犠牲になった2001年の大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件で注目された。09年施行の学校保健安全法で、危機管理マニュアルの策定が各学校に義務付けられた。

 文部科学省が示したガイドラインでは、侵入防止の手段として、校門の施錠や定期巡回などが挙げられている。

 しかし学校は保護者や業者の出入りなどが多いため、極めてまれな事件を想定して施錠を徹底するといった「警戒一辺倒」の対策は講じにくい面がある。

 学校は災害時の避難所などにも指定されている。本来なら地域に開かれた施設であるべきで、人の出入りを過剰に制限することは望ましくない。安全確保との折り合いをどう付けるか、知恵を出し合わなくてはならない。

 送検された少年の自宅があるさいたま市の小学校や公園では、2月に切断されたネコの死骸が相次いで見つかった。少年が関与をほのめかしているという。

 小動物が殺傷されるといった猟奇的な事件が起きた場合は、住民に危害が及びかねない不穏な兆候と捉えて、警戒を強化する必要があるだろう。

 登下校時を含め、犯罪から子どもを守るには、きめ細かな目配りが不可欠だ。地域を挙げた取り組みをさらに広げていきたい。