緊迫する国際社会の平和と安定に資するためにも日米がどう連携し、戦略を描いていくかが問われよう。

 岸田文雄首相とバイデン米大統領が先週、テレビ会議形式で会談した。昨年10月の首相就任後、初の本格会談だった。

 両首脳は信頼関係を深め、日米同盟を重視する方針を確認。経済安全保障や気候変動問題での協力を強化するため、外務・経済担当閣僚による協議枠組み(経済版2プラス2)の新設で合意した。

 バイデン氏が今春、就任後初めて日本を公式訪問し、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」首脳会合を開催することでも一致した。

 いずれも経済的、軍事的に脅威を増す中国が念頭にある。

 ほかにも中国の人権状況への深刻な懸念を共有し、東・南シナ海の一方的な現状変更の試みや経済的威圧に反対した。台湾海峡の平和と安定についても重要性を再確認した。

 覇権主義を強め、地域の安定を揺るがしている中国に、日米が連携し、毅然(きぜん)と対処していくのは当然だ。

 気掛かりなのは、大統領就任1年となったバイデン氏が内政、外交ともに混迷を深め、リーダーシップに疑問符が付けられていることだ。

 公約に掲げた米国内の団結や融和には、今なお程遠い。

 支持率は低下傾向が続き、このところのインフレでさらに下がっている。

 外交も空回りの状況が続く。

 昨年8月、アフガニスタン駐留米軍の撤退を強行し、政権の崩壊とイスラム主義組織タリバンの復権につながった。

 唯一のライバルと位置付ける中国との対立を深める一方で、ウクライナ侵攻が懸念されるロシアや、核開発を進めミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮に対し、実効性ある戦略を打ち出せないでいる。

 こうした中で、バイデン氏は日本を巻き込んで対中国、ロシアに強い姿勢で臨む構えをアピールした。会談の成果としたい考えなのだろう。

 国際的な指導力発揮に向けバイデン外交の早急な立て直しを望みたいが、課題が山積する中で先行きは不透明だ。

 岸田外交にも懸念がある。

 首相は、防衛力の抜本的な強化へ、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力」の保有をはじめ、あらゆる選択肢を検討するとバイデン氏に伝え、支持を得た。

 国会での議論も尽くさず、軍事的な協力を米国に約束することには危うさを禁じ得ない。

 首脳会談では「核兵器のない世界」の実現で協力すると合意した。会談前には核軍縮交渉義務などを定めた核拡散防止条約(NPT)の重要性を確認する共同声明も出した。

 被爆地の広島出身者でもある岸田首相はこれまで「米国を動かす努力をすることが唯一の戦争被爆国の責任だ」と述べてきた。合意や声明を核廃絶に結び付けなければならない。