戦後最悪といわれるまでに冷え込んだ日韓関係を健全な状態に戻したい。その強い意志を感じさせる解決策だ。

 関係改善を着実に図るには、日本側も丁寧に応えていく必要がある。両国ともに努力が不可欠だ。

 韓国政府は6日、元徴用工訴訟問題で、被告の日本企業2社の賠償支払いを韓国の財団が肩代わりする解決策を正式に発表した。

 1965年の日韓請求権協定で元徴用工らへの賠償問題は「解決済み」とする日本政府の考えに沿う内容だ。岸田文雄首相は「日韓を健全な関係に戻すためものとして評価する」と強調した。

 賠償を巡って韓国では、裁判所が差し押さえた被告企業の資産を現金化する手続きが進められ、現実化すれば両国のさらなる関係悪化を招くと懸念されていた。

 隣国の北朝鮮が核・ミサイル能力を高度化させるなど東アジアの軍事的緊張が高まっている時だけに、日韓が関係改善に動き出した意義は極めて大きい。

 解決策を受けて、林芳正外相は植民地支配への痛切な反省と心からのおわびを明記した日韓共同宣言の継承を表明した。

 日韓最大の懸案解決で両政府が事実上、合意した形だ。

 ただ、楽観はできない。

 韓国では日本政府の真摯(しんし)な謝罪や補償が足りないとの見方が強く、解決策に対する日本の「誠意ある呼応」を求める声もある。

 日本政府が韓国に向けて発信するメッセージが大事になる。岸田首相は、被害者をはじめとする韓国の人々の胸にしっかりと届くように伝えなくてはならない。

 尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は首脳のシャトル外交再開も含めて早期の関係正常化を図る構えで、3月中旬の来日に向けて調整に入った。

 だが韓国内では被告企業による賠償を主張する原告や世論の反発が収まる気配は見えず、関係改善が狙い通りに進むとは限らない。

 賠償を肩代わりする財団の資金は、請求権協定に基づく日本の経済協力資金で成長した韓国企業などが出資する方針で、韓国側は日本企業にも自発的な資金拠出を促している。

 林外相は「政府としては、民間企業の自発的な寄付に立場を取ることはない」と述べ、容認する姿勢だが、被告2社を含め日本企業が拠出するかは見通せない。

 政府は、半導体関連材料の対韓輸出規制強化などで解除に向けた協議を始める。

 日本の経団連と韓国の経済団体で若者の交流に寄与する基金の創設を検討する動きもある。

 解決策を契機に関係が軟化し、韓国が反発している「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録にも追い風となってもらいたい。

 各方面で対話を重ねて理解を深め合い、相互不信を一刻も早く払拭(ふっしょく)したい。