「この件は俺と首相が2人で決める話。俺の顔をつぶすようなことになれば首が飛ぶぞ」。相当に高圧的な言葉だ。政治家が官僚を恫喝(どうかつ)して自分の考えを通そうとする様子が記された行政文書が公開された

▼放送法が定める「政治的公平」の解釈を巡り、総務省と首相官邸関係者が2014~15年にやりとりした記録だ。「放送事業者の番組全体を見て判断」としてきた従来解釈を見直すよう、当時の礒崎陽輔首相補佐官が強い口調で迫っている

▼内容が偏っているとやり玉に挙げられた番組名も明記される。首相秘書官から「言論弾圧ではないか」と疑問視する声も出たが、安倍晋三首相も前向きで高市早苗総務相は15年5月に「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と国会答弁した

▼その後、総務省は従来解釈に変更はなく答弁は解釈を補充したものと説明したが、素直に読めば問題視できる範囲を広げたように思われる。政権の意向次第で放送事業者に圧力をかけられるのではないか

▼「牽強(けんきょう)付会」という四字熟語が頭に浮かんだ。「牽強」も「付会」も都合よく理屈をこじつけることを指す。一つの番組が濃度の高い政権批判をすることはあり得る。牽強付会を押し通してでも、そんな番組を排除したい意向が見てとれる。これがまかり通れば行政をゆがめ、政権の暴走に歯止めがかからない

▼政権と官僚機構との間に横たわる暗部に光が当たったのか。この問題が再浮上した背景も気にかかる。

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