東日本大震災に伴う原発事故で昨年、被災したすべての自治体の避難指示が解除され、ようやく住民の居住が可能になった。しかし帰還者は少なく、復興への道のりはまだ遠い。

 被災者の苦悩や事故の教訓を忘れずに、復興を後押ししていかなくてはならない。

 未曽有の被害をもたらした東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から12年になった。

 岩手、宮城、福島の被災3県でいまだに3万人超が故郷へ戻れておらず、その多くが原発事故の被害を受けた福島県民だ。

 福島第1原発が立地し、最後まで全町避難が続いた双葉町で昨年8月末、帰還困難区域のうち先行して除染する「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)の避難指示が解除された。

 半年たった現在は約60人が住むが、震災前の人口約7100人の1%に満たない。

 避難が長期化したことで、避難先に定住した人もいる。役場があるJR双葉駅周辺は整備されたが、被災した当時のまま残され、崩れかけた家屋も多い。

 まちづくりを進める一般社団法人「ふたばプロジェクト」の小泉良空(みく)さんは「復興へようやくスタートラインに立った」と話す。一歩一歩着実に進んでほしい。

 政府は復興拠点外の帰還困難区域でも、2020年代に希望者全員の帰還を目指す。

 新たに「特定帰還居住区域」を設け、希望者の自宅や復興拠点を結ぶ道路などを国費で除染する。多くの人が戻れるようにしっかりと進めてもらいたい。

 双葉町と大熊町にある中間貯蔵施設に搬入された除染土などは、45年3月までに県外で最終処分することが決まっている。しかし搬出先は未定だ。政府は責任を持って取り組まねばならない。

 政府と東電は福島第1原発の廃炉作業を41~51年に完了する計画で、今年春から夏に、トリチウムの濃度を国の基準未満に薄めた処理水の海洋放出を予定する。

 だが、風評被害を懸念する地元や漁業者らの理解は得られていない。政府と東電は「関係者の理解なしにはいかなる処分もしない」と漁業者に約束しているが、地元にはなし崩し的に放出が強行されるのではとの危惧がある。

 福島県の沿岸漁業の水揚げ量は徐々に増えているとはいえ、震災前の2割ほどだ。漁業者が心配するのは理解できる。

 日本世論調査会が1~2月に行った全国世論調査では海洋放出の賛否について、「分からない」が53%を占めた。昨年より割合が増えており、国民の理解が広がっているとは言い難い。

 政府は原発の運転期間を最長60年とする制度を見直し、原発を最大限活用する方針を決めた。

 だが調査には9割以上が、政府が「十分に説明しているとは思わない」と答えている。

 過酷事故がひとたび起きれば、住民が故郷を取り戻すことさえ容易ではなくなる。

 政府はいま一度、福島の被災地を見つめ、教訓を深く胸に刻んでもらいたい。