泥沼化した法廷闘争が事実上決着した。巨大公共事業を推し進めた国は、地域の分断としこりの解消に努めねばならない。

 長崎県の国営諫早湾干拓事業を巡り、潮受け堤防排水門の開門の可否が長年争われた訴訟で、最高裁は、国に開門を命じた2010年の確定判決を無効化する司法判断を維持し、開門を求める漁業者側の上告を退ける決定をした。

 最高裁が支持した昨年3月の福岡高裁判決は、開門命令を無効化する根拠に、堤防閉め切りから四半世紀が経過し、地域では閉門を前提とした社会が構築されていることを挙げた。

 漁業者1人当たりの漁獲量が増加傾向にあり、気候変動による水害の恐れで閉め切りの必要性が高まっていることなども考慮した。

 訴訟が乱立していた排水門に関する判断は、「非開門」で統一された。相反する判断が併存したねじれ状態がようやく解消された。

 干拓事業は1986年、農地造成と低地の高潮対策を目的に始まった。97年に湾内を全長7キロの潮受け堤防で閉め切った。鋼板が次々に有明海に落とされた光景は「ギロチン」と呼ばれた。

 漁業者らは潮流の変化による赤潮発生や、養殖ノリの不作などの漁業被害が生じたとして開門を求めた。一方、干拓地の営農者らは海水流入による塩害が懸念されるなどとして開門に反対してきた。

 最高裁決定について、漁業者は「見捨てられた気分だ」「怒りしかない」などと憤った。

 当然の思いだろう。一度は開門を命じる判決が確定したのに、国は問題解決を先送りにするとともに、確定判決の無効化を求める請求異議訴訟を起こしたためだ。

 司法の判断がねじれていたとはいえ、確定判決に従わない国側の対応などが問題を大きくしてきたようにも映る。

 裁判所はたびたび和解を促したが、国は「開門の余地を残した協議の席には着けない」などとかたくなに拒んだ。誠実さに欠ける対応ではなかったか。

 今回の決定に、営農者の一人は安堵(あんど)しながら「今後も事業を続けられるよう、国がサポートしてあげて」と漁業者を思いやった。

 国は開門せず、総額100億円の漁業振興基金による解決を模索してきた。だが漁業者は「基金を出して終わらせるつもりだろう」とし、不信感は強い。

 野村哲郎農相は国や自治体、漁業者、営農者らが協議する場を設ける考えを示した。

 司法の場での争いが決着した今こそ、国は有明海再生に向けた対策を示し、地域と漁業者の理解を得るよう努めなければならない。漁業被害の実態にもきちんと目を向けてもらいたい。

 いったん動き出すと、容易に止められない巨大公共事業の在り方についても見直す必要がある。