無罪を訴え続けて半世紀以上が過ぎた。2度にわたる再審開始の決定は重い。検察側は特別抗告をすることなく、速やかに司法判断を受け入れるべきだ。
1966年に静岡県の一家4人が殺害された事件を巡り、死刑が確定した袴田巌さんの第2次再審請求の差し戻し審で、東京高裁は13日、再審開始を決定した。
事件の1年2カ月後に袴田さんの勤務先にあったみそタンクから見つかり、犯行着衣とされた衣類5点について、捜査機関による隠匿の可能性が極めて高いと指弾した。「到底袴田さんを犯人と認定できない」と結論付けた。
事実上の「無罪判決」と言える。検察側は、隠匿の可能性を認めた司法の厳しい判断を深刻に受け止めなければならない。
2008年に弁護側が申し立てた第2次再審請求は、14年に静岡地裁が再審開始を認める決定をしたが、高裁が18年にいったん退け、最高裁が20年に差し戻す異例の展開となった。
第2次請求の期間だけで約15年が過ぎている。あまりに時間がかかったと言わねばならない。
争点は、1980年の確定判決が犯行着衣とした衣類5点に残っていた血痕の変色状況だった。
捜査資料では、発見された衣類に付着した血痕の色は「赤褐色」などとされていた。
これに対し弁護側は、実験を基に「血痕をみそ漬けすると赤みは短時間で消え黒色化する」とし、衣類は捏造(ねつぞう)証拠だと主張した。
今回、高裁は「1年以上、みそ漬けされた衣類の血痕の赤みが消失することは合理的に推測できる」と指摘した。弁護側が検察側の証拠に粘り強く反証してきたことが支持された意味は大きい。
袴田さんが冤罪(えんざい)である可能性は、かねて指摘されてきた。
一審は、1日平均14時間もの取り調べを続けた警察の強引な捜査を批判したが、供述調書を1通しか証拠採用しないまま死刑判決を下した。裁判官の1人は退官後、無罪の心証を持っていたと告白し、袴田さんに謝罪した。
最高裁が審理を差し戻した際は、裁判官5人のうち2人が再審開始を主張し、判断が分かれる異例の結果となった。
衣類5点のカラー写真のネガフィルムなどの証拠開示は、検察側が第2次請求で初めて応じた。
人生の貴重な時間が奪われたことを踏まえれば、全ての証拠の開示や、審理を長期化させる検察側の不服申し立ての禁止など、再審に関する法を改正すべきだ。
袴田さんは長年の拘置所生活と死の恐怖に苦しんだ。2014年に約48年ぶりに釈放されたが、拘禁症状が続いている。
今月10日で87歳となり、冤罪を晴らせる時間は限られている。一刻も早く再審を開始し、真実を確定しなければならない。