1強体制がさらに盤石になり、習氏派一色の新政府がスタートした。個人独裁に近づき、異論を許さない体制が構築された。
大国として果たすべき役割は、覇権主義を強めることではない。国際秩序の安定のために努めてもらいたい。
中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が開かれ、習近平国家主席の史上初の3選を満場一致で決めた。
昨秋の共産党大会で党総書記として異例の3期目続投を決めた習氏は、国家中央軍事委員会主席にも3選され、党・国家・軍の3期目トップの地位を手にした。
習氏は全人代で「社会主義現代化強国」を実現すると強調、4期目や終身支配を視野に入れ、中国の大国化を推し進める姿勢だ。
内政では、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済の回復が急務だ。2023年の国内総生産(GDP)成長率5・0%前後の達成を目標とする。
実務を担うのが、習氏の指名に基づき新首相に選出された李強氏だ。中央政界での経験がなく、手腕は未知数とされる。
習氏は自身と距離を置く人物を一掃し、副首相や閣僚ら政府要職も側近で固めた。習氏の個人的な意思が政策決定に、より直接的に反映される一方で、ブレーキ役が不在になる懸念がある。
習氏は「反腐敗」を掲げ政敵を追い落とし大衆の喝采を浴びた。しかし、言論の自由を抑え込むなど強権姿勢に大衆の期待は薄れ、離反し始めている。
昨秋の党大会直前には北京市内に習氏罷免を求める横段幕が掲げられ、厳格な行動規制を伴った「ゼロコロナ」政策撤廃を求めるデモも起きた。
内政ではこれまでになく、慎重なかじ取りが求められるだろう。
台湾統一への意欲をさらに強めていることは危惧される。全人代では「祖国統一のプロセスを断固推進する」と演説し、米国を念頭に外国勢力の干渉をけん制した。
台湾側は「中台は互いに隷属しないと繰り返し宣言している」と警戒を強めた。
台湾を力で支配しようとし、外交面でも異論を許さない姿勢を貫くなら、国際社会とのあつれきを生み軍事的緊張を高めるだけだ。
日本に対しては、沖縄県・尖閣諸島領海への中国艦船侵入が続いている。偶発的な衝突が起きないか気掛かりだ。
習氏支配のさらなる長期化を見据え、日中両国の相互利益に基づく関係構築が欠かせない。
一方で、ロシアと友好国である中国は先月、ウクライナ侵攻を巡り停戦を呼び掛けた。これについて米国は、ロシアが態勢を整えるためだと批判している。
米中両国は影響力を誇示するためではなく、真に停戦が実現するよう協調してほしい。