米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設が主要争点となった名護市長選で自民、公明両党が推し、岸田政権が支援した現職渡具知(とぐち)武豊(たけとよ)氏が再選を果たした。

 玉城デニー知事が後押しし、移設反対を掲げた新人は及ばなかった。

 ただし、現職は地域振興を主に訴え、最後まで移設の賛否を明言しなかった。市民が移設を容認したとは決していえない選挙結果だ。

 岸田文雄首相は「良い第一歩になった」と選挙を総括したが、地元の理解が得られたと受け止めるのは筋違いだろう。

 政府は「移設が唯一の選択肢」との今までの立場に固執せず、沖縄の民意と真摯(しんし)に向き合わなければならない。

 名護市長選は、秋に予定される知事選を天王山とする「沖縄選挙イヤー」の初戦と位置付けられた。

 沖縄では新型コロナウイルスの影響で、主要産業の観光は大打撃を受けており、感染拡大で疲弊する沖縄経済の実情が選挙結果に影響したのは間違いない。基地問題より経済対策優先が支持された形だ。

 現職陣営は移設進捗(しんちょく)に応じ国が支給する米軍再編交付金の効果を大きくPR、学校給食費や子ども医療費を無償化した実績を強調した。政権とのパイプ構築による地域振興を訴えた。

 一方で「国と県の推移を見守るしかない」と移設についての賛否を一切語らなかった。態度を明らかにして、有権者の反応が変化するのを見越した争点隠しとも取れる。

 渡具知氏は当選後も辺野古移設について「国と県の推移を見守るという以外ない」と語った。地域の将来を大きく左右する国策に考えを示さないのは、自治体の長としてあまりに無責任に見える。

 看過できないのは、沖縄にアメとムチで揺さぶりをかけ、移設を推し進めようとする政府の態度だ。

 再編交付金を巡っては、移設に反対した前市長時代に凍結されたものの、現市長になって再開された。公金を使った地方自治への露骨な介入だ。

 投票率は前回選を8ポイント以上下回り、過去最低だった。気掛かりなのは辺野古の工事が着々と進む状況に、県民に諦めムードが強まらないかという点だ。

 名護市長選で、新人候補は米軍由来とされる新変異株「オミクロン株」の感染拡大で、根底にある日米地位協定の問題点もあぶり出した。

 だが、たとえ反対しても工事は止まらないとの声は根強かった。ウイルス禍に加え、そうした意識が投票結果や低投票率につながった面はないか。

 辺野古海域の軟弱地盤の改良工事に伴う建設費の膨張などの問題もある。移設がなし崩し的に進んでいくことを懸念する。

 辺野古移設を巡る問題は、国策と地方の在り方を問う。本県が抱える原発問題にも共通する。新潟からも関心を持って見つめ続けたい。