トップ同士が直接会って「戦後最悪」と言われるほど冷え込んだ関係の修復に踏み出した。

 11年以上途絶えていた「シャトル外交」も再開される。両国間の協議を通し、懸案が一つずつ解決されることを期待したい。

 岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が16日、官邸で会談し、両国関係の正常化で合意した。

 日本での日韓首脳会談開催は約5年ぶりだ。歴史認識などを巡り長年対立してきた両国が大きく動き出した。新たな日韓関係のスタートを歓迎したい。

 尹氏は元徴用工訴訟問題を巡り、日本企業の賠償支払いを韓国財団が肩代わりする解決策を説明し、岸田氏は着実な実施に「期待する」と言及した。

 両首脳が相互訪問するシャトル外交の再開は大きな合意だ。民主主義の重要な隣国として信頼関係を育んでもらいたい。

 ようやく訪れた「雪解け」の機運をしっかりつかみ、政治や文化、経済の面での連携や交流を強めていく必要がある。

 会談の実現は、対立から協力関係強化へとかじを切った尹氏の強い意志の表れだった。

 関係改善を急いだ背景には、核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮に対処するため、日本や米国との安全保障分野での連携強化を優先させる狙いがある。

 日本にとっても、ロシアのウクライナ侵攻や中国の覇権主義的な行動で国際秩序が揺らぐ中、日韓関係が冷え込んだままでは東アジアの安定に影響する恐れがある。

 北朝鮮は会談当日の朝、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。安全保障面の協力関係を改善させようとする日韓と同盟を結ぶ米国をけん制する思惑だろう。

 断じて容認できない行動だ。日米韓は連携して北朝鮮の軍事的挑発に警戒を強めねばならない。

 会談は5年間開かれていない日韓安保対話を速やかに再開させる方針で一致し、尹氏は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化も宣言した。

 中国を交えた日中韓の対話を早期に再開する重要性も確認した。

 一方、韓国内には尹氏の訪日への根強い批判がある。世論調査では元徴用工問題解決策への反対が賛成を上回る。

 解決策は政治決着を急いだ面が否めない。市民団体からは「被害者と歴史を犠牲にした」などと声が上がっており、歴史問題の再燃リスクをはらんでいる。

 岸田氏は、植民地支配への痛切な反省と心からのおわびを明記した日韓共同宣言を「全体として引き継いでいる」と表明したが、「おわび」とは口にしていない。

 尹政権の決断に応えるためにも、日本政府は「韓国の国内問題」と突き放してはならない。両国間に横たわる歴史問題と真摯(しんし)に向き合う覚悟が求められる。