今年の春闘が本格化し、大手企業が相次いで高水準の賃上げを提示している。この流れを地方や中小企業にも着実に広げ、日本経済全体の再生につなげたい。
15日の大手企業の集中回答日は、基本給を底上げするベースアップ(ベア)などを要求する労働組合に対し、電機7社と自動車8社の全てが満額回答した。
近年にない高い引き上げを示す会社もあり、経営側の積極姿勢が鮮明となった。
連合は17日、傘下労働組合の賃上げ要求に対するこれまでの回答が、平均で月額1万1844円、賃上げ率は3・8%だったとの中間集計を公表した。
労働者の平均賃金は1990年代半ば以降上がらず、昨年来のロシアによるウクライナ侵攻で高騰した物価は家計を圧迫している。
日本経済をリードし、業績を上げている大手企業が積極的に対応するのは社会的責務でもある。賃金と物価が上昇する好循環の契機となるからだ。
人口減少が続く中、優秀な人材を確保するためには、高い賃金水準を示す必要があるとの危機感も経営側に働いたとみられる。
今後は働く人の7割を占める中小企業などで交渉が本格化する。大企業の回答を追い風に、大幅賃上げができるかが焦点となる。
多くの中小は賃上げ原資の確保に苦慮しており、厳しい回答が予想される。
原因の一つは、立場の弱い中小の下請けが、発注先に納入する製品の価格に原材料などの高騰分を十分転嫁できない実態がある。
いびつな力関係を見直し、適正な価格を実現しなければならない。中小の安定的な経営と雇用がなければ日本経済の持続的な成長はないとの認識を、特に発注する側の大企業は共有するべきだ。
本県でも上場企業で賃上げの動きがある一方、中小は厳しい予想が出ている。
地方と大都市との賃金格差が広がり、人材流出が加速する恐れがある。大企業と中小、大都市と地方の二極化が進みかねない。
政府は、労働団体や経済界の代表者らと話し合う「政労使会議」を集中回答日に合わせて8年ぶりに開いた。
岸田文雄首相は、今後の賃上げ波及に向け「政策を総動員して環境整備に取り組む」と述べ、最低賃金の全国加重平均を今年千円に引き上げることに意欲を示した。
生産性を上げるデジタル化の推進や、賃上げをする中小企業への実効性ある補助制度など、きめ細かな支援を急ぐ必要がある。
労働者側が強い交渉力を持てるよう、企業単位ではなく、業界ごとに賃上げの相場を形成する仕組みづくりも求められる。
政労使は継続的な賃上げに向け、それぞれの立場で力を尽くしてもらいたい。
