ウクライナとの連帯を強化し、支援を継続していくことを国際社会に示す訪問だ。先進7カ国(G7)の議長も務める首相には、各国間の対話を促し、国際秩序を再構築するための先導役を果たしてもらいたい。
岸田文雄首相が21日、ロシアによる侵攻が続くウクライナの首都キーウ(キエフ)を電撃訪問した。訪問は昨年2月の侵攻開始以来、初となる。日本の首相が紛争地に入ることは極めて異例だ。
首相がゼレンスキー大統領と直接会談し、祖国を守るために立ち上がったウクライナ国民に支援の意思を伝えることは意義深い。
ロシアの侵攻と力による一方的な現状変更に断固拒否する考えを共有することも理解できる。
ウクライナ侵攻が主要なテーマとなる5月のG7首脳会議(広島サミット)を前に、議長として議論を導く立場の首相には、ゼレンスキー氏と対面で会談し、被害状況を直接確認しておく必要性もあっただろう。
政府は今回、訪問を事前公表しない異例の措置を取り、首相は渡航先のインドからの帰国予定を変更して現地に入った。
外遊時の慣例である国会の事前承認も得なかった。
侵攻開始後、G7の首脳で現地入りしていないのが岸田首相だけだったことが大きい。ウクライナからも招請されており、ようやく体面を保つことができた。
戦火が拡大する中で、ゼレンスキー氏は訪問した各国首脳に兵器供与を求め、欧米各国は戦車や戦闘機の供与に応じてきた。だが日本は武器輸出のルール「防衛装備移転三原則」により、殺傷能力を持つ武器は提供できない。
ウクライナへの支援は越冬対策といった人道支援や財政支援、地雷除去の技術などに限定され、支援総額もトップの米国には遠く及ばないが、日本の事情をよく認識するウクライナから目立った不満の声は上がっていない。
日本は災害からの復興経験といった強みを生かし、ウクライナの戦後復興を視野に入れた支援に力を入れていくべきだ。
平和主義を掲げる日本は戦後、紛争当事国の一方に肩入れすることには慎重だった。今回の訪問には、日本の従来の外交姿勢を大きく転換した側面があることも忘れてはならない。
首相のウクライナ訪問はくしくも、中国の習近平国家主席がロシアを公式訪問し、プーチン大統領と会談するタイミングと重なった。両首脳は、中ロの連携強化を脅威と見なす欧米に対抗し、戦略的協力関係を誇示している。
複雑な情勢の中で「平和国家」を掲げる日本に求められるのは、世界の分断を深めるのではなく、関係を紡ぎ直していくことだ。首相はそのことを、G7議長として肝に銘じてもらいたい。
