休日に薬局に立ち寄った。見渡すと、2千円を超える高い目薬の棚が空になっていた。目のかゆみに悩まされている人が相当いるに違いない。かゆみに効く目薬は他のものも残りわずかだった。つらさから一刻も早く解放されたい心理が見えてくる

▼環境省は今年の春に花粉が多く飛ぶことを早くから予測していた。スギの雄花を調べると飛散量が見通せるらしい。本県を含む北陸や関東は「極めて多くなる見込み」と公表していた

▼「極めて」というのは「2021年までの10年間の最大値を超える」レベルだという。かなり手ごわそうだ。解説によると、前年の夏の日照時間が長く気温が高いと、飛散する量が多くなってしまう。夏の好天がうらめしく思えてくる

▼大量飛散の予測は正解だったようで、くしゃみがあちらからも、こちらからも聞こえてくる。「きょうは多いみたいですね」。量を敏感に感じ取って、いたわり合うのがあいさつ代わり。電車内では、どこのクリニックがお薦めか、情報交換で盛り上がる姿があった

▼マスクを着け続ける人が多いようだが、ウイルスへの警戒でなく、花粉症対策のためにやむなく、という人も多いのではないか。「春が嫌いです」という鼻声が、なんともかわいそう

▼一粒ならなんてことはない小さな花粉も、束になって向かってこられるとかなわない。環境省の予測に添えられた一文がわずかな救いだろうか。「飛散が多かった年の翌年は量が減る傾向がある」。望むのは心軽やかな春だ。

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