地域貢献への思いを社名に刻んでいる企業がある。肌着などで知られる「グンゼ」だ。もともとは漢字で「郡是」と書いたという。産業振興で地域発展に貢献したいとの思いを込め、郡の方針を意味する「郡是」と社名を定めた
▼創業者の波多野鶴吉は現在の京都府綾部市出身。生糸を買いたたかれ貧困に苦しむ農家の姿を見かね、当時は何鹿(いかるが)郡と呼ばれた地元に工場設立を決意した。高品質の生糸を生産し、人々の生活を豊かにしようと取り組んだ
▼製糸工場で働く女性に習字や算術も学ばせ「表から見たら工場、裏から見たら学校」と言われたそうだ。誰もが知る企業に成長した今も、綾部本社を残している
▼綾部市はNHKの連続テレビ小説で波多野を取り上げてもらおうと署名活動に取り組んでいる。地域の産業を支えただけでなく、住民の暮らしの向上にも尽力した波多野は地域の誇りでもあるようだ
▼グンゼの歴史をたどると、企業と地域が相思相愛の関係にあることがよく分かる。つい比較したくなるのが東京電力だ。柏崎刈羽原発の再稼働に向け、地元の理解を得るために新潟本社を発足させたのが2015年4月だった
▼それから8年になるが、柏崎刈羽原発ではテロ対策などの不備や不適切な事案が相次ぎ、地域と東電の距離はむしろ遠ざかったように見える。信頼を裏切るような行為を重ねていては、地域の理解を得られないのも当然だろう。地域のために何をなすべきなのか。東電には改めて見つめ直してもらいたい。