県内の深刻な医師不足は一向に解消する気配がない。地域で十分な医療を受けられないようでは、住民は安心できない。
命を守り、地方の活力を維持するためには、病院常勤医の確保に向けた対策が急がれる。
長岡市の基幹病院である立川綜合病院が今月、消化器内科の新患や入院の受け入れを休止した。
常勤医を派遣する新潟大の医局が医師5人中3人を引き上げ、他の病院に異動させるためだ。
緊急対応が必要な救急患者は、立川綜合と輪番制を組む長岡赤十字、長岡中央綜合両病院が当番制で受け入れている。
2病院だけでは担当医に負担が集中することが避けられない。中越医療圏全体の救急態勢に影響が及ぶことも懸念される。
医局側は引き上げ理由を「医局も人数が減っている。若い医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)を防ぐ意味もある」と説明する。
来年4月には医師の労働時間に上限を設ける「働き方改革」が導入される。医師を再配置する必要性は分かるが、一度に3人を異動させるとは理解に苦しむ。
地元の医療関係者からは「医師を育て、地域医療を守るための大学が、地域医療を壊そうとしている」と憤りの声が上がる。
大学に住民の不信の目が向きかねない。地元への丁寧な説明など責任ある対応が求められる。
医師不足の影響はこの病院にとどまらない。糸魚川市の糸魚川総合病院は4月から医師不足のため分娩(ぶんべん)を休止する。
市内で唯一の出産できる医療機関だ。今後は最も近くて30~50キロ離れた上越市か富山県入善町となり、妊婦が不安なく移動できる距離とは言い難い。
住民の不安解消に努め、安心して出産できる態勢を一日も早く整えてもらいたい。
分娩休止は産婦人科常勤医2人のうち1人が定年退職、1人が派遣元の富山大に復帰するためだ。
病院や県、市などによる医師探しは難航している。夜間に出産が多い産婦人科は勤務時間が不規則になりがちで、病院にはより多くの医師を配置する必要がある。
医師の充足状況を示す厚生労働省の医師偏在指標によると、本県は全国ワーストだ。
2004年度に始まった新臨床研修制度で、研修医が首都圏など大都市の病院に集中し、地方の医局の医師不足が深刻化している。
一方、23年度から県内の病院での研修医勤務が内定した学生は新制度で最多の130人となった。明るい材料だと受け止めたい。
留学支援制度や研修プログラムの充実など県や病院などの取り組みに効果が出ているといえる。
とはいえ、募集定員に対する充足率は6割弱で不足解消にはほど遠い。あらゆる知恵を絞って地域に必要な医師を確保したい。
