就職や人事異動の季節である。どんな仕事にも周囲の注目を集める「花形」があれば、地味な役回りもある。ついつい花形に目が行くが、いぶし銀のように独特の存在感を醸し出し、玄人筋の評価が高い人もいる

▼ビートルズのギタリストだったジョージ・ハリソンは、バンドの看板だったジョン・レノンとポール・マッカートニーの陰で「第三の男」といわれた。静かな印象の一方で、いち早くロックにインド音楽を取り込むなど、独自の道を切り開いた

▼「自分の役割は前にしゃしゃり出ないことだった」と話していたという。そんな第三の男ぶりに魅了された人は多い。1月に亡くなった「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」のドラマー高橋幸宏さんもその一人。理想の音楽家像として挙げていた

▼ジョージと同様に、坂本龍一さんと細野晴臣さんという強い個性に囲まれていた。著書の中でジョージについて「目立たない主役というか、目立つ脇役」だと語っている

▼言い得て妙だ。積極的な音楽活動の傍ら、ファッション界でもデザイナーとして名をはせていた高橋さんだからこその思いがあったのだろう。視野の広さはジョージに通じる

▼大国がパワーゲームを繰り広げる国際政治の中で、わが国が目指すべき姿は「第三の国」かもしれない。軍備を背景にした力の統治ではなく、平和憲法を有する立場で各国の仲立ちをすることで国際社会に貢献したい。世界が混迷を深める今だからこそ、目指す姿を再確認しては。

朗読日報抄とは?