核兵器の脅威をかき立て、米欧の軍事的緊張が激化することは必至だ。国際的な核秩序を揺るがす行為であり、ロシアは即座に撤回するべきだ。

 ロシアのプーチン大統領は、同盟国ベラルーシへの戦術核兵器配備を決めたことを明らかにした。ベラルーシのルカシェンコ大統領と合意した。

 既にベラルーシ空軍機10機が核兵器を搭載できるよう改造され、ロシアから供与された弾道ミサイルシステム「イスカンデル」も核兵器発射が可能だという。

 ロシアが他国領内に核兵器を配備すれば、1991年のソ連崩壊後に核兵器保有を放棄した旧ソ連諸国から引き渡しを受けて以来、初めてとみられる。

 プーチン氏は、ベラルーシへの戦術核配備の理由を、ウクライナに劣化ウラン弾などを供与する米欧の軍事支援強化への対抗措置だとし、北大西洋条約機構(NATO)側を強くけん制した。

 米国が長い間、欧州の同盟国に核兵器を配備してきたとして、「われわれも同じことをする」と述べて正当化した。

 冷戦終結とソ連崩壊で静まっていた欧州での「核による対峙(たいじ)」が再燃する恐れもある。極めて憂慮すべき事態だ。

 核拡散防止条約(NPT)は核不拡散を訴え、核兵器保有国に核軍縮義務を課してる。

 プーチン氏は、ベラルーシへの配備は譲渡ではないとして「核兵器不拡散の国際義務に違反しない」としたが、一方的な主張であり、看過できない。

 イスカンデルは、射程が約500キロとされる。ベラルーシから発射すれば、東欧諸国やドイツ辺りまで届く。こうした国々にとって心理的脅威となるのは確実だ。

 ロシアとベラルーシは連合国家創設条約を結び、経済や軍事面で国家機能の統合を進めている。

 ベラルーシはウクライナ侵攻に直接参加していないが、ロシア軍の出撃拠点になった。

 侵攻以降、プーチン氏は核による威嚇を繰り返しており、これ以上、ウクライナや国際社会を核の脅威にさらすことは許されない。

 ウクライナ外務省は「NPTや核軍縮、安全保障を損ねる挑発的措置」と非難し、国連安全保障理事会の緊急会合を直ちに開くよう要請した。

 国際社会は結束して緊張緩和への道筋を見いだしてほしい。

 岸田文雄首相は先週ウクライナでゼレンスキー大統領と会談し、ロシアによる核兵器の威嚇を強く非難するとともに、先進7カ国(G7)議長国としてウクライナ侵攻への対応を主導する決意を示したばかりだ。

 唯一の戦争被爆国でもある日本は、NPT加盟国とも連携してロシアに抗議し、政策変更を迫ってもらいたい。