ご近所の庭のハクモクレンが咲いた。ぷっくりと丸みを帯びた花が愛らしい。優しい乳白色の花びらが、青空によく映える。さあ春本番ですよ。花が語りかけてくるようだ

▼別のお宅の庭では、シモクレンのつぼみが膨らんでいた。こちらはまだ紫の花の色がわずかにのぞく程度だが、間もなく白い花の仲間に追いつくだろう。鮮やかな紫と乳白色の共演が楽しみだ。心躍る季節である

▼モクレンと聞いて人気バンド「スターダスト・レビュー」の「木蘭の涙」を思い浮かべる方もいるだろう。こちらは切ない曲だ。いとしい人が春の日に空へと旅立ち、モクレンのつぼみが開くのを見るたび涙があふれる-。こんな歌詞に触れると、にっこり笑って咲いているようなモクレンもどこか哀感を帯びて見える

▼モクレンはコンパス・プラント(方向指標植物)として知られている。日当たりなどの条件にもよるが、北を指すようにつぼみをつける。春の暖かい日差しで、つぼみの南側の成長が進むため先端が北に向くらしい。一心に北を向いて咲く姿は、けなげでもある

▼周囲を見渡せばモクレンに加え、黄色いレンギョウや青いムスカリもお目見えした。新潟市では一昨日、統計開始以降最も早く桜の開花が宣言された。上越市の高田城(じょう)址(し)公園の観桜会はきょう開幕する

▼色彩にあふれる季節だ。鼻歌の一つも出てきそうになる。ただ「花の命は短くて」の例えもある。モクレンを見て大切な人をしのぶように物思いにふける。そんな春もいい。

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