保護すべき人を強制送還させる恐れがあるのは旧案と変わらない。難民の支援者らから法案撤回を求める声が強いのは当然だ。
外国人の収容・送還に関するルールを見直す入管難民法改正案が今国会に提出された。2021年に廃案となった旧案を大筋で維持した内容となっている。
政府は法改正の狙いについて、国外退去を命じられた外国人の入管施設への収容が長期化している問題を解消するためだとする。
21年に名古屋出入国在留管理局の施設で収容中にスリランカ人女性が死亡した問題や、国際機関からの指摘を踏まえ、「旧案から大きく修正した」とも強調する。
しかし、政府のこうした説明は素直に受け取れない。
法案は、難民申請中の場合に本国への送還が停止される回数を原則2回に制限するとしている。旧案と同じ内容だ。
現在の入管法では、難民申請は何度でもでき、申請中は強制送還が停止される。出入国在留管理庁は、送還を逃れる意図で申請を繰り返してしているケースが多いとみている。
だが、本来難民認定されるべき外国人が不認定になり、異を唱えたまま送還される恐れは根強い。3回目以降の申請は、「難民認定すべき相当の理由」を示さねばならず、ハードルが高い。
外国人が申請を繰り返さざるを得ないのは、日本の難民認定率が毎年ほぼ1%以下で、諸外国と比べてもかけ離れている実態が背景にあるからだ。
法案はこの他に、不法滞在者らの入管施設収容に代わり「監理措置」を新設し、支援者ら「監理人」の下で一時的に社会内での生活を認めるとした。
認定基準に満たなくても、難民に準じる人を「補完的保護対象者」として在留を認める制度も設ける。対象者にはウクライナやアフガニスタンなど紛争から逃れてきた人らを想定している。
これらについても疑問が多い。
監理措置や対象者に関する裁量は入管に委ねられる。監理措置とせずに施設に収容する場合の収容期間の上限も規定されていない。
収容の上限を明確にし、司法の審査で公正に判断する仕組みを取り入れるべきではないか。
管理庁は法案提出後、難民認定の具体的な判断要素を整理した「難民該当性判断の手引」を公表した。入管当局が難民申請を恣意(しい)的に解釈していると指摘されていることなどから、透明性をアピールする狙いがあるのだろう。
ただ、難民認定が容易ではない状況は続く。政府は手引の策定を「認定数の増加が目的ではない」と強調する。
日本の難民認定の少なさは国連機関から度々批判されてきた。政府は法案を撤回し、難民保護にしっかり向き合うべきだ。
