旅立ちの春を迎え、期待と不安を膨らませる人も多いだろう。家電や衣料品の店を訪れると「新生活応援5点セット」や「新社会人スーツ5点セット」などが店頭に並ぶ

▼各店舗がお勧めするセット商品である。品質と価格のバランスを考えるとお得感がある。忙しい人にとっては、一つ一つ吟味して選ばなくてもいい手軽さも魅力だ

▼セット商品の魅力は大きいが、国の針路を決める重大な政策をセットに議論するのはどうなのか。60年を超える原発の運転を可能にする法改正案のことだ。国会では、原子力基本法や電気事業法などエネルギー関連の5法改正案をまとめた「束ね法案」として審議入りした

▼束ね法案は効率良く審議できるが、法案1本当たりの審議時間が短くなり争点が埋没しがちだと指摘される。政府にとって「一推しのセット商品」かもしれないが、一部からは「一括審議は丁寧さのかけらもない」と批判が上がる。原発の推進と規制を一緒くたに議論することへの懸念も大きい

▼政府は今回の束ね法案を「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法案」と呼ぶ。国際社会との約束でもある脱炭素を前面に掲げ、再生エネルギーの導入促進を図る一方、原発を長く使うとの姿勢を打ち出した

▼再生エネと原発の運転延長は同じ土俵で考えるものなのか。政府は「セットの議論なら手軽に早く決められる」と考えているわけではないだろう。多くの人の納得を得るには、一つ一つの丁寧な議論が欠かせない。

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