妊娠による強制帰国におびえ、誰にも相談できずに孤立出産に追い込まれた。痛ましい事件を巡る司法判断を重く受け止め、支援体制の整備と技能実習制度の見直しを急がなければならない。

 熊本県で2020年、死産した双子の遺体を段ボール箱に入れて自室の棚に放置したとして、死体遺棄罪に問われた元技能実習生のベトナム人女性の上告審判決があり、最高裁は一、二審の有罪を破棄し、逆転無罪を言い渡した。

 死産した子どもの遺体を巡り、遺棄罪に当たるかどうかに関する最高裁の初判断だった。

 女性は実習生当時、ミカン農園で働き、自室で双子の男児を死産した。遺体をタオルにくるんで、おわびの言葉などを書いた手紙とともに段ボール箱に入れ、自室の棚の上に置くなどした。

 判決は「他者による遺体の発見を困難にした」とする一方、行われた場所や遺体を置いていた方法などを総合的に考慮し、「習俗上の埋葬などと相いれない行為とは認められない」と指摘し、遺棄には当たらないとした。

 死産後の行為を丁寧に検討した上での判決は妥当といえる。

 事件が突き付けたのは、立場の弱い実習生が働きながら安心して妊娠、出産できない状況だ。

 ベトナム語の交流サイト(SNS)上には、妊娠が分かれば強制帰国になるとの情報があふれている。女性は、妊娠がばれたらすぐに帰国になると思い、誰にも打ち明けられなかったという。

 受け入れを仲介する監理団体や実習先から妊娠関連の話を聞いたことはなく、強制帰国が禁止されていることも知らなかった。

 実際、実習生の妊娠が監理団体や実習先に知られると、帰国させられたり、中絶を迫られたりするケースは後を絶たない。

 言語も慣習も異なる日本で働く実習生には、細やかな情報提供と、いつでも相談できる窓口の整備が欠かせない。行政は民間と連携を強め、積極的に支援の手を差し伸べてほしい。

 今回の背景には、技能実習制度自体の問題もある。日本で学んだ技能を母国で生かしてもらうのが制度の狙いだが、実態は異なる。

 多くの受け入れ先は、人手不足を解消するため期間限定の労働力として扱っている。家族帯同や転職は認められず、「奴隷労働」とも呼ばれるほど批判が強い。

 政府は、有識者会議で制度見直しの議論を進めている。今回のケースを踏まえ、一人の人間として外国人の人権を尊重した制度へと抜本的に改めるべきだ。

 事件を巡っては、無罪判決を求める署名が約9万5千筆も集まった。孤立出産は人ごとではないとの思いが広がったからだろう。

 実習生に限らず、誰もが安心して産み育てられる雇用環境の実現を着実に進めたい。