音楽と木はなじみが深い。木管や弦、太鼓など木を使った楽器は多い。コンサートホールにも木材がふんだんに使われている。木には人に優しい音をつくり出す性質があるという
▼材料の中を伝わる音の速さなどは金属と変わらないが、金属よりずっと振動を吸収するらしい。振動を確実に伝える一方、ほどよく吸収してくれる。こうした性質が人間の耳にとって心地よい音を生みだすようだ
▼音楽にとって木は欠かせない存在だ。そんな思いも抱いていたのだろうか。訃報が伝えられた音楽家の坂本龍一さんは森林を守る活動にも熱心に取り組んでいた。代表を務めた保全団体は新潟市秋葉区の「にいつ丘陵」を舞台に、間伐材をペレット燃料にする取り組みを後押しした
▼にいつ丘陵を訪れた際は「間伐しているおかげで、森全体に光が差し込んでいていい」と評価した。ペレット燃料を活用することで、新潟の森林と都会をつなげるという夢も語っていた
▼平穏な暮らしがあってこその音楽という信念があったのだろう。環境問題のほか、平和や反核、脱原発といったテーマでも積極的な発信を重ねた。音楽活動では理論派として「教授」と呼ばれたが、テレビで漫才やコントも披露するなど人としての幅は広かった
▼その才気は、ロックやテクノ、クラシックといったジャンルを超えて輝いた。「イエロー・マジック・オーケストラ」としてユニットを組んだ、盟友の高橋幸宏さんが1月に逝ったばかりだった。喪失感がいっそう募る。