幹部官僚経験者の根強い特権意識にあぜんとする。中央省庁の権威を振りかざし、民間企業の人事に介入するなど言語道断だ。

 元国土交通省事務次官で、東京メトロ会長の本田勝氏が昨年、民間企業「空港施設」に対し、国交省OBで副社長の山口勝弘氏を社長に昇格させるよう要求していたことが明らかになった。

 副社長の山口氏が、取締役だった2021年5月、国交省出身の社長退任に伴う役員人事会議で、同社の事業に対する国交省の権限をちらつかせながら、代表権のある副社長ポストを自ら要求していたことも分かった。

 山口氏は3日に辞任した。副社長ポストを要求した責任を取ったものとみられる。

 本田氏は山口氏の社長昇格を念頭に「国交省OBとしてあらゆる形でサポートする」という趣旨の発言をしていたという。

 「権限をかさにお願いしたのではない」と釈明したが、事務方のトップを務めた元次官の口出しは、民間企業の人事に介入したと捉えられても仕方がない。

 両氏の言動は国民の常識と乖離(かいり)した時代錯誤的な特権意識の表れで、見逃すことはできない。

 本田氏は空港施設に対し、主要株主である日本航空など2社が了解したとも伝えていた。主要株主の影響力を背景に昇格を求めるのは姑息(こそく)で、次官経験者が取るべき態度としてふさわしくない。

 空港施設の歴代社長は国交省OBが務めていたが、事業の失敗などにより、21年から日航出身者が社長に就いていた。

 本田氏の要求は、歴代OBが独占してきた社長の座を取り戻す意図があったのだろう。

 社長人事について空港施設は、東証プライム上場で高度なガバナンス(企業統治)が求められるとし、要求に応じることは「あり得ない」としている。

 斉藤鉄夫国交相は4日、本田氏が聞き取り調査に対し、事実関係を認め謝罪したと明らかにした。

 本田氏は閣議了解を経て東京メトロ会長に就いている。国はその処遇についても厳正に対処してもらいたい。

 昇格要求を巡り本田氏は、OBら何人かの知り合いと議論し「相談に行ってこい」ということになったと説明した。退官後の処遇をOB間で調整している実態も浮き彫りになった。

 国家公務員法は08年に法改正し、現役職員による天下りへの関与の規制を強化した。しかし、OBの関与は規制の対象外で、退官後、出身省庁と無関係な業界に入り、しばらくして関連業界に移るケースも多いという。

 政府は他省庁でも同様の人事介入がないかを調査するべきだ。

 OBによる天下りへの関与も規制できるように改めて国家公務員法を見直すことも必要だろう。