卵かけご飯は、ラーメンやカレーと並ぶ日本人のソウルフードだろう。略して「TKG」。時代小説の大御所で食通だった池波正太郎が、一世一代の場面に登場するTKGについて「卵のスケッチ(A)」と題した随筆に書いている
▼大石内蔵助ら忠臣蔵の義士が吉良邸討ち入り当夜に食べたというのだ。「一同は、何よりも鴨(かも)肉入り生卵をかけた温飯(ぬくめし)を大よろこびで食べた」。場所は新発田出身の堀部安兵衛の家である。事実なら、歴史的な腹ごしらえが一気に身近な味わいになる
▼1人当たりの卵の消費量は日本がメキシコの次に多く、1日1個近くになる。県庁所在地と政令市対象の家計調査で、過去3年平均の食品購入ランキング(2人以上世帯)が2月に公表された。新潟市の卵の購入量が鳥取、奈良両市に次いで全国3番目に多いことに驚いた
▼昨年10月からの鳥インフルエンザの感染拡大は過去最悪レベルで、まだ気が抜けない。県内も野鳥以外で養鶏場などの確認が5例に達した。県人口より多い250万羽余りが、防疫のため姿を消した。「いただきます」の合掌に、採卵鶏を悼む気持ちも重ねたい
▼卵の供給不足で、昨年なら10個100円台で買えた「物価の優等生」も、300円前後に値上がりしている。食品の値上げラッシュの中、卵好きの県民には厳しい春が続く
▼一方、新年度に入学や入社をした新鮮な“金の卵”は、人生の節目を楽しんでいるだろうか。卵がかえり、羽ばたく日まで、温かく見守ってあげたい。