金融政策を本来の姿に戻す「出口」に、どうたどり着くか。政策運営のかじ取りは極めて困難だが、国民生活への打撃とならないよう適切な判断をしてもらいたい。
第32代日銀総裁に経済学者の植田和男氏が就任した。戦後初の学者出身の総裁となる。
植田総裁は10日、岸田文雄首相と会談し、「意思疎通を密にして機動的な政策運営を行っていく」ことで一致した。
物価上昇率を2%で安定させる目標を「早期に実現する」とし、大規模金融緩和策の根拠となっている政府と日銀の共同声明に関しては「直ちに見直す必要はない」との認識を共有した。
続く就任記者会見では、大規模緩和策を「現状では維持する」と述べ、物価の2%目標については「早期達成を目指すが、簡単ではない」と答えた。
物価と賃金がそろって上昇する経済の好循環を実現してもらいたい。それには、前任の黒田東彦氏が10年間講じてきた金融政策をどのタイミングで、どう修正するのかが注目される。
初期の大規模緩和策は、国債を大量に買って世の中のお金の量を増やすことが柱だった。2016年にはマイナス金利政策を導入し、政策目標を「お金の量」から「金利」に切り替えた。
緩和策を打ち出した当初は株価が急上昇し、円高傾向も反転して企業の輸出環境は改善した。経済政策「アベノミクス」の柱として脚光を浴びたのは確かだ。
ただ、その後は物価目標の達成を見通せず、財政規律の緩みや市場機能の低下などの副作用が強まり、市場の不信を招いた。
今年2月の消費者物価指数は3・1%上昇したが、円安による輸入物価高騰の影響が大きく、日銀が目指した賃上げを伴う持続的・安定的な上昇とは言い難い。
黒田氏は退任の記者会見で自らの金融政策を「(失敗とは)全く思っていない」と強弁し、道半ばで退くことは「残念」と語った。
だがエコノミストには、この10年で「日本の長期停滞は全く変わらなかった」との指摘もある。
日銀の国債保有残高は3月末時点で過去最大の581兆円余りに達した。金利上昇の局面では財政への負担が増し、多額の含み損を抱えることになる。
「黒田バズーカ」と呼ばれた金融緩和策の点検や検証をするべきだろう。植田総裁も「あってもいい」と必要性を認めている。
後始末を託された植田総裁の責任は大きい。緩和策修正に期待が集まるが、急激に変更すれば一気に円高が進む恐れがあり、金利が高騰するリスクもある。
米銀の経営破綻に端を発する金融不安が、実態経済に影響する恐れも拭えない。国内外の経済情勢を見極め、市場の混乱を避けつつ対応していくことを期待したい。