古代中国・周の時代、幽王は妃(きさき)を笑わせようと敵襲を知らせるのろしを上げては諸侯を集めていた。そのうち本当に敵が押し寄せてきたが、今度は誰も集まらず、王は殺されたという。「おおかみ少年」の寓話(ぐうわ)を地で行くような筋立てだ
▼きのう朝、全国瞬時警報システム(Jアラート)に身構えた。北朝鮮からのミサイルが北海道周辺に落下するというから大ごとだ。着弾が予想される時刻は目の前。緊張が高まった
▼程なく、情報は訂正された。北海道周辺での落下の可能性はなくなったとのこと。ほっとするとともに、今回もおおかみ少年のような展開になってしまったという思いが浮かんだ
▼Jアラートは、昨年も誤情報を流して混乱を呼んだ。10月にミサイルが青森県上空を通過した際は、本来不要な東京都の島しょ部が誤って対象地域に含まれた。11月にはミサイルが日本上空を通過したと誤って速報し、その後訂正した
▼危機を察知したなら、すぐに警報を発するのは当然だ。しかし、これだけ誤りが続けば信頼は大きく揺らぐ。反撃能力(敵基地攻撃能力)を持とうとする中、誤情報に基づく行動が起きないか不安にもなる。速報性と精度の両立は簡単ではなかろうが、改善は待ったなしだ
▼寓話の中では、窮地に陥ったのは誤情報を流した幽王とおおかみ少年だった。一方、ミサイル問題では危機が現実になった際に命の危険にさらされるのは私たち国民だ。システムの精度向上は求めつつ、油断や思い込みは禁物でもある。