言論を力で封殺する行為は断じて許されない。民主主義の根幹である選挙中に、またも起きた卑劣な暴挙を断固非難する。
和歌山市の雑賀崎(さいかざき)漁港で15日午前、衆院和歌山1区補欠選挙の応援に訪れていた岸田文雄首相の街頭演説直前に、筒状のものが投げ込まれ、爆発した。
首相は無事だった。警察官1人が軽傷を負った。
安倍晋三元首相が昨年7月、奈良市で参院選の街頭演説中に銃撃され、死亡してから9カ月しかたっていない。
不特定多数が集まる選挙の演説会場で、要人を狙う凶行が繰り返され、現職の首相が襲撃されたことに大きな戦慄(せんりつ)を覚える。
県警は、威力業務妨害容疑で、取り押さえた兵庫県川西市の24歳の男を現行犯逮捕した。
犯行に及んだ背景に何があったか、捜査を徹底し、動機を解明してほしい。爆発物の詳細や入手経路も丹念に調べてもらいたい。
筒状のものは2本あり、投げ込まれた1本が岸田首相から1メートルもない場所に落下した。
首相は爆発の前に警護官(SP)に警護され、数十メートル先の車の陰まで待避した。演説は中止した。
爆発までにわずかな間があり、SPの機敏な対応もあって難を逃れたが、落下と同時に爆発していたら被害が出た可能性がある。
安倍氏銃撃では、数多くの警護の不備が明らかになり、警察庁は昨年8月、要人警護の基本ルールを示す「警護要則」を改定した。
地元警察が策定した警護計画を警察庁が全て事前審査する形になり、今回も審査していた。
改定後、初の大型選挙である統一地方選のさなかで、現職の首相の遊説となれば、計画は周到に確認されたはずである。
それでも不測の事態が起きた以上、対策に盲点はなかったか、検証しなくてはならない。再発防止策を検討する必要がある。
5月には広島市で先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が開かれ、各国の要人が集まる。
新潟市ではG7財務相・中央銀行総裁会議の開催まで、1カ月を切っている。
国際的な舞台での警護に不備があってはならない。関係者は対策と確認を徹底してほしい。
首相は15日午後に演説を再開したが、今回の事件は、要人警護の中でも、有権者と警護対象者の距離が近くなる選挙警護の難しさを改めて浮き彫りにした。
警察の警護対象は現役閣僚や首相経験者らに限られ、共同通信社が国会議員に行ったアンケートでは、4割近くが選挙活動中に危害を加えられる不安を口にした。
そうした懸念は、直接の触れ合いを重視する地方議会や自治体の選挙についても同じだろう。
全ての暴力を、民主主義の現場から排さなくてはならない。
