地球温暖化の深刻な被害を回避するための時間は限られると指摘される中で、明確な道筋を示せなかった。これでは議長国の主導力を問われかねない。
先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合が15、16の両日、札幌市で開かれた。
会合では、2050年の温室効果ガス「実質ゼロ」に向け「排出削減策が取られていない化石燃料使用の段階的廃止を加速させる」との共同声明を採択した。
需要が根強い天然ガスも廃止の対象にする一方で、脱炭素化の推進で焦点だった石炭火力発電を含め、年限を示した早期全廃には合意できなかった。
産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑えるパリ協定の目標実現が危ぶまれ、G7がどう取り組むか注目されていただけに、踏み込み不足の印象がある。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、3月にまとめた報告書で、パリ協定の実現には、30年に世界の二酸化炭素(CO2)排出を19年比で半減させ、35年に65%減らす厳しい対策が必要だと指摘した。
国連のグテレス事務総長は、今の地球温暖化に責任がある先進国に対し、40年ごろの「排出実質ゼロ」を求めていた。
そうした流れもあり、会合の事前交渉で欧州などは脱炭素化の目標時期の前倒しを迫っていた。
残念なのは、石炭火力発電を30年代も維持する方針の日本が反対したために、前倒しが実現しなかったことだ。
日本は、東京電力福島第1原発事故の後、火力発電への依存が拡大した一方、再生可能エネルギーの割合は2割にとどまる。
ウクライナ危機をきっかけに政府は原発の「最大限活用」に転換したが、再稼働には課題が多い。
電力の安定供給には引き続き火力発電が不可欠だという日本の内向きな事情が判断の根底にあるとはいえ、議長国が足を引っ張っては求心力が高まらない。
この問題を巡っては近年、G7議長国が取り組みを先導した。
21年議長国の英国は石炭火力発電所廃止を重要テーマに据え、昨年は議長国ドイツが電力部門の35年までの脱炭素化を唱えた。
それだけに日本のかじ取りが注目されていたが、自動車関連でも、G7各国で保有する車のCO2排出量を35年に00年比で半減できる可能性があるとしたものの、目標は明確にならなかった。
閉幕後、国内外の環境団体は相次いで、化石燃料脱却の明確な工程を示すべきだと訴えた。
極端な気象現象が頻発し、気候変動の悪影響が鮮明になる中で、危機感を強くするのは当然だ。
不安に応えるためにも、全体討議をする5月のG7首脳会合では、日本は力を尽くし、対策強化を主導してほしい。
