勧告は、学術会議法に基づく最も強い意思表明である。13年ぶりに出された勧告を、政府は重く受け止めねばならない。

 日本学術会議は18日、政府に対し、会員選考方法の見直しなどを盛り込んだ学術会議法改正案の今国会への提出を思いとどまり、開かれた協議の場を設けるよう求める勧告をまとめた。

 改正案は、第三者による「選考諮問委員会」を新設して会員選考に関与させることが柱だ。学術会議は会員候補選考の際、諮問委の意見を聞き尊重しなければならないとしている。

 諮問委の委員は5人で、首相が議長を務める政府の総合科学技術・イノベーション会議内で選ばれた議員や、日本学士院の院長と協議し、学術会議会長が任命する。

 政府側は法改正の理由を「選考プロセスの透明化」としている。

 これに対し学術会議側は、諮問委の介入で独立性が損なわれると批判している。

 学術会議と政府の溝は、深まるばかりだ。

 松野博一官房長官は「学術会議に丁寧に説明し、十分に意見を聞きながら進めている」と述べたが、信じるには無理がある。

 政府は学術会議を蚊帳の外に置き、具体的な条文を示さず、見直しの概要を小刻みに伝えてきただけだ。有識者による審議会も開かずに、内閣府を中心に検討されていることにも、不透明感が漂う。

 学術会議の梶田隆章会長は「(政府側から)一方的な説明を受けるのみだ。説明を受けるたびに懸念は強くなる」と述べ、不信感を強く抱くのも当然だろう。

 対立の発端は、2020年に当時の菅義偉首相が会員候補の任命を拒否したことだが、政府は拒否の理由をまだ説明していない。

 透明性の確保には、政府が任命拒否の理由を明らかにすることが不可欠だ。このままでは政府への不信感は到底なくならない。

 政府は改正案の国会提出に前のめりになるのではなく、学術会議側の理解が得られるよう対話を重ねるべきだ。

 見直し案に対しては、日本のノーベル賞受賞者ら8人が「学術の独立性を損なう根源的かつ重要な問題につながる」と危惧する声明をまとめたほか、海外のノーベル賞受賞者61人も懸念を表明する共同声明を出した。

 米国やドイツ、フランスなどの代表的な科学者組織も懸念を示す書簡を、学術会議に送った。

 米科学アカデミーは「政治的な干渉から科学的助言を独立させることが重要なのは共通認識だ」と指摘している。

 政府は、各国科学者の理解を得られない内容であることを認識すべきだろう。

 学問の自由は、民主主義国家にとって欠かせないものであることを、政府は改めて考えてほしい。