あの花は咲いただろうか。ウクライナ出身の女性が故郷の写真を見せてくれた。両親が送ってきたものという。停電が続く中、太陽光パネルでスマートフォンを充電している庭先に、植物の小さな芽が見えた。撮影は2月下旬。現地は新潟より寒いだろうに、しっかりと育っていた

▼「これはクロッカス、こちらはチューリップ」と教えてくれた彼女は、日本で暮らす家でもさまざまな花を育てている。もともと予定していた来日の直前にロシアが侵攻し、着の身着のままやって来た。その頃に比べれば暮らしはいくらか落ち着いたようだ

▼ウクライナでは今冬、毎日のように空襲警報が鳴り、停電を繰り返していたという。首都キーウは今もミサイルの脅威にさらされる。その中でも庭先に花を植えて春を待つ人がいた

▼日本ではロシアの侵攻後に初めてウクライナに本格的な関心を寄せた人も多いのではないか。そうした人にとってウクライナは戦火の国という印象だろう。ロシアによる攻撃で破壊され、見る影もなくなった地域もある

▼一方、彼女が見せてくれた他の写真にはカフェに集まる人や、停電の中でも営業を続けるスーパーの様子も写っていた。軍靴に踏みにじられた土地でも、人々はなんとかして日常の暮らしを保とうとしている

▼県内は、桜を経てチューリップが見頃になっている。今年は色とりどりの花を眺めながら、遠いウクライナに思いをはせたい。先の見えない戦争が続くあの地にも、小さな花を育てる人がいる。

朗読日報抄とは?