紛争地からの一刻も早い退避が望まれるものの、現地の情勢は予断を許さない。

 政府は、在留邦人を安全かつ迅速に避難させられるよう状況を適切に見極めてほしい。

 浜田靖一防衛相は20日、正規軍と準軍事組織の戦闘が激化するアフリカ北東部スーダンに滞在する邦人の退避準備のため、航空自衛隊にアフリカ東部ジブチへの輸送機派遣を命じた。

 林芳正外相が在外邦人の輸送手続きを定めた自衛隊法に基づき、派遣準備を要請した。今週末にも出発する見込みだ。

 スーダンでは、首都ハルツームなどで市街戦が続き、国際空港付近でも戦闘が起きている。自衛隊機は、自衛隊が海賊対処活動の拠点を置くジブチに待機させる。

 スーダンには大使館員を含め63人の邦人が滞在している。

 政府によると、全員と連絡は取れ被害情報はないが、水や食料が不足し、頻繁に停電が起きるなど厳しい状況下にある。昼夜を問わず爆撃があるほか、強盗が多発し治安が悪化している。

 世界保健機関(WHO)によると、これまでに戦闘で330人以上が死亡したという。

 被害が及ばないうちに退避させたいが、戦闘が沈静化する気配はなく、長期化も見込まれる。

 自衛隊機がスーダンに入る予定は立っていない。ドイツは戦闘激化のため救出作戦を中止し、各国の退避活動も難航していると伝えられている。

 そうした中にあって、日本政府が今回、対応を急いだのは、2021年8月に、アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが首都を制圧した際に派遣が遅れた苦い経験があるからだろう。

 大使館職員は英軍機に搭乗して出国し、自衛隊機が輸送したのは日本人1人と米国から要請を受けたアフガン人14人だった。

 政府は昨年、迅速に派遣できるよう自衛隊法を改正した。閣議決定を不要にし、危険回避策を講じれば、派遣できるようにするなど安全確保の要件を緩和した。

 だが、危機回避策を講じること自体が容易ではない。邦人や隊員の安全をどう確保するか、難しい対応を迫られるに違いない。

 統一地方選のさなかだけに、政権の危機管理能力を強調する思惑ものぞくが、拙速にならず情勢を分析し進めるべきだ。

 スーダンの戦闘は15日に始まった。正規軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の主導権争いが原因とされる。

 両者はいったん停戦合意を表明したが守られておらず、実現性は見通せない。

 先進7カ国(G7)が先日開催した外相会合で停戦を呼びかけたほか、日米欧などの在スーダン大使館も即時停戦と対話開始を求める共同声明を出した。

 スーダンはロシアの影響力が強く、G7が協調しても停戦は難しいとの見方もある。

 しかし、停戦しなくては、安全に避難できない。日本は各国と連携し、停戦へ向け働きかけを強めなくてはならない。