世界最大のスポーツ大会を巡る一連の不正行為で、癒着の構図が断罪された。運営に関わった関係者は有罪判決を重く受け止め、信頼回復に努めてもらいたい。
東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、大会組織委員会元理事高橋治之被告=受託収賄罪で起訴=への贈賄罪に問われた紳士服大手AOKIホールディングス(HD)前会長青木拡憲(ひろのり)被告ら3人に東京地裁は21日、執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。
東京地検特捜部が立件し、贈賄側の企業トップら計15人が起訴された汚職事件5ルートの中で、初めての判決となった。
判決は「東京大会の公正な運営に対する社会の信頼が害された」と厳しく非難した。
大規模な国際大会を利用し、企業が不正に利益を得ようと賄賂を送った行為が処断された。十分納得できる内容だ。
判決によると、青木被告ら3人は共謀し、大会スポンサーへの選定や迅速な契約、契約に日本代表選手団の公式服装に関係する優先供給権を含めることなどを高橋被告に依頼(請託)した。
2019年9月~22年3月、高橋被告が代表だったコンサルタント会社の口座に、計2800万円の賄賂を入金した。
判決で注目したいのは、組織委会長だった森喜朗元首相からマーケティングを任された高橋被告に、理事としての強い職務権限があったと指摘したことだ。
青木被告らは森氏を交えた会食などを通して高橋被告の影響力の強さを認識したとし、「自社の大きな利益を上げるため高橋被告を頼り犯行に及んだ」と述べた。
一方の高橋被告についても「見返りに利益を得ようとする思惑が一致し、合意の上で(犯行が)行われた」と断じた。
青木被告らが高橋被告を「みなし公務員」と認識していなかったと主張した点も「大会運営のために公的支援があったのは周知の事実。公的立場も十分に認識していた」として退けた。
高橋被告は起訴内容を否認し、公判期日は決まっていない。判決は検察が描いた汚職の構図を認定した形で、他の裁判にも影響を及ぼしそうだ。
五輪を巡っては、汚職事件のほか、談合事件で電通グループなど6社と大会組織委大会運営局の元次長ら4人が起訴、3人が在宅起訴されている。裁判で大会運営の「闇」の全てを明らかにし、うみを出し切らねばならない。
一連の事件を受け、スポーツ庁や日本オリンピック委員会(JOC)は、大規模なスポーツ大会の運営に関する指針をまとめた。
利益相反取引を監視する独立した委員会設置や、マーケティング業務の透明化などだ。関係者は不祥事の再発を防ぐため、速やかに指針を実行してもらいたい。
