感染禍で拡大した格差を是正するためにも、鈍化している賃上げの流れを好転させ、働く人の暮らしを守る賃金水準を確保しなければならない。

 労使が歩調を合わせ積極的な賃上げにつなげてもらいたい。

 連合の芳野友子会長と経団連の十倉雅和会長が会談し、2022年の春闘が本格化した。

 「分配」重視を掲げる岸田文雄首相が経済界に繰り返し賃上げを求める中、労使の代表がその重要性で一致した。

 ウイルス禍は多くの人の仕事を奪い、社会の中で男女、正規と非正規という雇用形態、企業規模での「三つの格差」が根強いことを示した。

 例えば厚生労働省の20年の調査などでは、非正規労働者の平均月給は、正社員より約10万円低い21万4800円にとどまる。男性よりも女性の方が非正規が多い現実がある。

 これらの格差を是正し、着実な景気回復のためにも継続的な賃上げが必要だ。

 十倉会長は、企業の責務として賃上げと処遇改善に取り組むことが極めて重要だとし、岸田首相が掲げる「成長と分配の好循環」を踏まえ「社会的な期待を考慮した主体的対応」を呼び掛けるとした。

 業績が好調な企業には、定期昇給(定昇)に加え、基本給を底上げするベースアップ(ベア)実施も促した。

 好業績でもベアを「選択肢」にとどめた昨年よりは前向きだ。ただ、賃上げの数値目標は設けず、一律の対応も見送ったのは踏み込み不足ではないか。

 業績の良いところというだけでは不十分だろう。多くの企業に賃上げが浸透するよう努力してほしい。

 首相は業績がウイルス禍前の水準に回復した企業には3%を超える賃上げを求めたが、そもそも先進国の中で、日本の賃金上昇の鈍さは際立っている。

 生産性が上がっても、それに見合った賃上げをしてこなかったとの批判は根強い。

 経済協力開発機構(OECD)の調査では、20年の平均賃金は1990年に比べ約4%しか伸びていない。昨年の春闘の賃上げ率は1・86%で、8年ぶりに2%を割り込んだ。

 連合は7年連続でベアの要求水準を2%程度とし、定期昇給分と合わせ計4%程度の賃上げを求めている。

 芳野会長は労働者に適正な分配が行われてきたとは言い難いとし、「月例賃金にこだわり、底上げ、底支え」を訴え、格差是正も掲げた。

 大手企業に続き、中小や地方が流れに乗れるよう、賃上げムードを高めてほしい。

 昨年12月の全国消費者物価指数は4カ月連続で上昇し、生活必需品などの値上がりが目立つ。今春には物価上昇率が2%近くになるとの見方が多い。

 賃金がモノの値上がりと同じだけ上昇しなければ、生活が苦しくなるのは目に見えている。

 経済好転の鍵は賃上げが握っている。そのことを改めて認識しなければならない。