地方と大都市との賃金格差を是正する契機にするべきだ。全国どこであっても安定した暮らしを送れるよう見直さなければ、人口の一極集中は改まらない。

 厚生労働省が、経済情勢に応じた最低賃金(最賃)の都道府県別の区分をA-Dの四つからA-Cの三つに削減し、再編することを決めた。今夏から適用する。

 最低賃金は、中央最低賃金審議会が区分ごとに引き上げの目安額を示し、それを参考に都道府県の審議会がそれぞれの地域の額を改定する仕組みになっている。

 Aランクは従来と変わらず東京や大阪など6都府県が入る。Bランクは現在の11府県から28道府県に増え、本県は従来のCからこのBランクに移る。Cランクは青森など13県が入る。

 40年以上続いてきた4区分を3区分に減らして中間層を増やすことで、全体の水準を上げ、地域間の格差是正につなげることが目的だという。

 最低賃金の最高額と最低額の差は2002年度に104円だったものが、22年度は219円になり、20年間で倍以上に広がった。

 最も高い東京都が時給1072円なのに対し、本県は890円にとどまり、全国平均の961円より低い。最低額の青森など10県は853円で、東京との開きはさらに大きい。

 これでは地方から大都市圏への人口流出を助長してしまう。まずは再編による格差是正効果をしっかり示すことが求められる。

 日本世論調査会が統一地方選を前にまとめた調査結果では、人口や企業の東京一極集中の是正を求める人が「ある程度」を含め計75%と高かった。

 ランク分けには格差を固定化する懸念がある。地方から人材を奪うほど時給額に差を付けることは、避けるべきだ。

 最低賃金は、労働者を守るセーフティーネット(安全網)であり、全体の水準の底上げを図ることが不可欠だ。

 しかし底上げは中小、零細企業にとって負担になりかねない。賃金を引き上げるだけの体力がある事業所ばかりではないからだ。

 23年春闘は、急な物価高騰を背景に、大手企業を中心に大幅な賃上げ回答が相次いだ。

 一方で経営体力の弱い中小企業や零細企業では、コスト増加分の価格転嫁が十分に進まず、賃上げの原資が乏しい。賃上げを後押しする助成制度の拡充も必要だ。

 食料やエネルギーの価格が高止まりし、以前にも増して苦しいやりくりを迫られている家庭は多いに違いない。

 生活の支えが乏しくては、安心して子どもを産み育てることもままならない。

 政府には、誰もが安心して将来設計を描けるようなセーフティーネットを提示してもらいたい。