制限や自粛を求められる日々から解放され、以前のような日常を取り戻していくことは喜ばしい。
一方で感染がなお収束していないことを忘れてはならない。状況に応じて対応する必要があることを常に念頭に置いておきたい。
新型コロナウイルスは、感染症法上の位置付けが8日に季節性インフルエンザなどと同じ5類に移行し、3年に及んだ感染対策が大きく緩和される。
移行を控えた大型連休は、各地の観光地で人出が増え、感染禍前のにぎわいを取り戻しつつある。
水際対策が4月29日に終了し、外国人の姿も目立っている。
これまで控えてきた会食や旅行に出掛ける機会は、今後さらに増えるに違いない。
高齢者が暮らす介護施設では、オンラインでの面会を余儀なくされていたが、対面に切り替える動きもある。待ちわびていた入居者や家族は歓迎しているはずだ。
長く続いたマスクの着用は、行政機関の窓口対応などで継続するところはあるものの、基本的に個人の判断に委ねられている。
学校や保育施設などで子どもたちがマスクを外すようになれば、互いの表情がよく分かり、情緒を育む上でも利点があるだろう。
ただ、感染拡大や体調管理には引き続き注意が求められる。
重症度は上がっていないというが、オミクロン株派生型「XBB・1・5」などの割合は増えている。病床使用率は全国的に低いものの感染者は増加傾向にある。
5類移行に伴い、公費で賄った入院や外来の医療費は、高額な治療薬代などを除き、原則自己負担になる。受診控えで重症化する人が生じることも懸念される。
新型ウイルスの外来診療をする医療機関は現在より2千施設多い約4万4千施設となるが、移行時点で約6万4千施設としていた政府目標には届いていない。
外来や入院に手厚かった診療報酬の特別措置が縮小され、診療を始めるメリットが小さくなっていることもある。政府が医療機関に要請するだけでは「絵に描いた餅に終わりかねない」と指摘する専門家もいる。
厚生労働省に対策を助言する専門家組織の有志は、今後流行「第9波」が起こり、第8波より大きな規模になる可能性も残されているとの見解を示している。
再び医療逼迫(ひっぱく)が起きることがないように、対応する医療機関を増やす取り組みは不可欠だ。
共同通信社の世論調査では、5類移行で感染再拡大を「心配している」と答えた人は「ある程度」を含め6割を超えた。
高齢者をはじめ、重症化リスクが高く、移行を不安に思う人がいることも忘れてはならない。
体調が悪ければ検査するなど注意を払いながら、移行後の日常を軌道に乗せたい。
