スポーツ指導での暴力やパワハラが依然としてなくならない。関係者は根絶へ向けて粘り強く努力し、誰もが安心、安全にスポーツができるよう指導者らへの啓発を進めていかねばならない。
スポーツ界が「暴力行為根絶宣言」を採択し、暴力を必要とする誤った考えを捨て去るよう指導者に求めてから10年になった。
しかし、日本スポーツ協会によると、暴力やパワハラ問題の相談件数は2022年度に373件になり、統計を取り始めた14年度以降最多になった。根絶にはほど遠い状況だ。
内訳は暴言が増加傾向にあり、34%を占め最も多かった。体罰などの暴力は13%だった。
深刻なのは、被害者の41%が小学生で、6割以上を小中高生の子どもたちが占めたことだ。声を上げづらい未成年への不適切な指導が多い実態が明らかになった。
全国大会で優勝に導いた指導者が、部員に暴行した例もある。宣言の理念を理解していないというしかない。
子どもが被害を保護者に打ち明けても「我慢しなさい」などと言われたケースもあり、保護者への問題意識の浸透も課題だ。
根絶宣言は、12年に大阪市の高校バスケットボール部の主将が体罰を受け自殺した事件や、13年の柔道女子日本代表への暴力指導問題が発覚したことから、日本オリンピック委員会(JOC)など5団体が採択した。
根絶へ向けた取り組みは進められている。
五輪・パラリンピックの競技団体を対象に共同通信社が実施したアンケート調査では、56団体のうち54団体が相談窓口を設置し、約7割の39団体が活用した。
相談窓口の多くは弁護士ら外部の人材が関与し、処分規定も設けた。上意下達の閉鎖性が指摘されたスポーツ界で一定の成果が表れた形だと評価できる。
課題は、調査能力に限界があることだ。匿名で寄せられた情報では正確な把握が困難で内容も複雑化している。日本サッカー協会では約200件の調査のうち、処分が下ったのは7件にとどまった。
相談後の流れや、相談に伴い不利益を被らないことなどを周知していくことが重要だ。
公立中学校の休日部活動の地域移行に関しては、外部指導者の資質への不安が強い。
行政が指導者の研修費を補助するなど積極的に関わっていく必要があるだろう。不適切な指導を指摘しやすいよう、多くの人の目が届く環境づくりも大切だ。
日本スポーツ協会は来年3月末までを暴力根絶への取り組み集中期間とし、指導者や保護者への啓発活動に力を入れる。
スポーツ界の本気度が問われる。実のある啓発活動になることを期待したい。
