いつまで強気を押し通すのか。戦況を直視し、国際世論にも耳を傾け、ウクライナへ侵攻した軍を即時に撤退させるべきだ。
ロシアのプーチン大統領が9日、首都モスクワの赤の広場で行われた「対ドイツ戦勝記念日」の軍事パレードで演説し、ウクライナへの侵攻作戦継続を表明した。
プーチン氏は、「ロシアに対する本物の戦争が再び行われているが、テロに反撃し国の安全を守る」と述べた。欧米諸国が続けるウクライナへの軍事支援を「ロシア崩壊が目的だ」と非難した。
自国を守るための戦いだと訴えたいのだろうが、他国の理解を得られるはずがない。ロシアが始めた侵攻であるということを忘れてはならない。
侵攻から1年以上たち、ロシア社会には戦時下の重苦しい空気が漂っている。
プーチン政権はこれまで侵攻を「特別軍事作戦」とし、戦争との表現を避けてきた。演説は大統領自身が「戦争」であると認めた格好だ。国民に支持や結束を訴える狙いとみられ、危機感の裏返しとも受け取れる。
記念日恒例の軍事パレードは、地方の20都市以上で中止された。モスクワでも縮小され、参加した兵士は昨年の1万1千人から8千人超に減少した。登場した戦車は旧式の1台だけだった。
兵士や装備に多大な損失が出ていることの表れだろう。米シンクタンク戦争研究所は、ロシア軍の弱体化を隠蔽(いんぺい)するため行事を縮小したと分析している。
ロシアが併合を宣言したウクライナ東部のドネツク州バフムトでは激戦が続いている。ゼレンスキー大統領は、ロシア軍は記念日までの制圧を失敗したと述べた。
バフムトを巡っては、部隊を投入するロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏が、軍から適切な支援がないと主張し、一時撤退をほのめかすなど、正規軍との確執が鮮明になった。
ロシア大統領府が3日に、大統領官邸のあるクレムリンが無人機2機の攻撃を受けたと発表した。前代未聞の事態だ。
ロシア側の戦死者は、ソ連時代のアフガニスタン侵攻の約10年間で死亡した約1万5千人を大幅に上回っているとの推計がある。
プーチン氏はこうした現状をしっかり受け止め、これ以上犠牲者を増やさない決断が求められる。
気になるのは政権周辺で、ウクライナ大統領府への直接攻撃など強硬論が浮上していることだ。
演説では「日本軍国主義と戦った中国兵の偉業も記憶し、敬意を表する」と言及し、米欧の対ロ制裁に同調する日本をけん制した。
ロシアの暴挙を止めるため、実効性のある対策をどう打ち出すか。来週開催される先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)での真価が問われる。