原発の重大事故に対する県民の不安と疑問に、きちんと向き合う総括にしてもらいたい。
県庁内の事務的作業だけで科学的で高い専門性を担保できるか。取りまとめには懸念がある。
東京電力福島第1原発事故を巡る県独自の「三つの検証」の取りまとめについて、花角英世知事は定例記者会見で、有識者でつくる検証総括委員会ではなく、県が自ら行うと発表した。
三つの検証の総括は検証総括委がまとめる予定だったが、前委員長の池内了(さとる)氏と県が議題や運営方針を巡って対立し、全委員の任期が3月末で切れてからは休眠状態が続いていた。
花角知事は決断の理由を「これ以上、押し問答を続けていても動かない」と述べた。県が押し切った格好となった。
まとめる手法については、部局横断で事務的に作業し「(三つの検証の)報告書に矛盾がないか確認する」と説明した。
最終的には文書にする方針で、福島事故の原因や健康への影響、住民避難などの検証別に要旨を抽出して構成し、総括の章を別に設けるとイメージする。
各検証報告書から抽出することで、専門家の知識や意見を生かす趣旨は理解できる。肝心なのは総括に科学的な知見を反映させることができるかどうかだ。
当初は池内氏が書くはずだった総括部分は、県職員が書くとみられるからだ。これでは第三者委員会としての客観的な総括といっていいか分からない。
作業に学識者が関わらないことに対し、知事は「曲解したり誤解したりしたら、この後の歴史でただしてほしい」と述べた。
自信があるのだろうが、県民の安全安心に関わることで歴史を待つわけにいかない。専門家の知見を得ながら、正しい判断に資する総括となるよう努めてほしい。
取りまとめは、知事が東電柏崎刈羽原発の再稼働の是非を判断する材料の一つとなる。どこをどう参考にするのかを示すべきだ。
総括終了後には県民の意見を聞く場を設けるとした。公聴会やシンポジウムなどを想定する。
県技術委員会による原発の安全性確認や、東電が原発を運転する適格性の議論の結果も判断材料とすることは当然だ。
原発を検証する第三者組織として、県技術委は丁寧で徹底した議論を尽くすことが求められる。
気になったのは、知事が今回初めて、判断に当たってはエネルギー情勢や電力需給の状況、脱炭素に向けた動きなども考慮すると表明したことだ。
「依存度低減」から「最大限活用」にかじを切った政府の原発政策と重なって見える。
世界最大級の原発が立地する県の知事として、あくまで住民の安全を最優先に考えてもらいたい。
