日々進化する人工知能(AI)とどう向き合うか。情報には誤りも含まれ、人権侵害や機密漏えいにつながる恐れなど課題があることを十分認識し、賢明な利用を心がけねばならない。
対話型の「チャットGPT」など文章や画像を作成する生成AIの利用が急速に拡大している。
チャットGPTは米新興企業オープンAIが2022年11月に公開した。質問に対し、自然な言葉で回答してくれる。公開から2カ月で利用者が1億人を超えた。
ネット上の百科事典「ウィキペディア」やニュース記事、学術論文などウェブサイト10億ページ相当のデータから、正しい回答になる確率の高い単語を選び文章を作る。
文書の校正や要約、企画書や論文の作成もできる。情報収集や分析の効率化が期待される。
ただ、回答にはしばしば誤りが含まれる。利用者の個人情報流出も懸念される。著作権侵害を訴えた団体もある。
確率的、統計的な処理で回答するため、ネット上の差別や偏見をそのまま答えてしまう恐れもある。人権の尊重のほか、多くの情報に触れて熟慮するといった民主主義の価値や目的を理解していないとの指摘もある。
先進7カ国(G7)では、先日開かれたデジタル・技術相会合で「信頼できるAI」を目指し、利用規律として「法の支配」「人権尊重」など5原則で合意した。
教育相会合は「継続的に課題を把握し、リスクを軽減する重要性を認識する」とした。
規制の在り方を国際的枠組みで話し合うことは、適切な利用に向け必要だ。19日からの首脳会議(広島サミット)でも議論を深めてもらいたい。
世界的には、欧州連合(EU)欧州議会の委員会が包括的なAI規制案を承認した。AI生成の文章や画像にはAIが作ったことを通知したり、システム開発に使用した著作物を開示したりする。
米政府は、今夏に利用指針案を公表し、開発企業側の情報公開を加速させる。
日本政府は先週、「AI戦略会議」を設置し、活用方法や規制の在り方の検討を始めた。
各国の動向を踏まえ早急に課題を把握し、安全性や信頼性を高めなくてはならない。AIの利便性や技術革新を阻害しないバランスの取れたルール作りも必要だ。
既に利用している自治体もある。神奈川県横須賀市が先月、チャットGPTを全国の自治体で初めて試験導入した。広報文作成や議事録の要約、誤字脱字のチェックなどに活用している。
本県や長岡市なども活用方向だ。事務作業の効率化につなげる狙いがある。
懸念されるのは教育での影響だ。大学では学生の間では既にリポートや論文の作成に利用されており、思考力や表現力を奪うとの不安が広がっている。
利用する場合、子どもたちが情報の真偽を見極める力や情報を正確に得る力を育まねばならない。
文部科学省は23年度中に学校での取り扱いについて、注意点や有効な活用方法を示す方向だ。早急に示してほしい。
