戦争被爆地である広島で、先進国の首脳らが「核兵器のない世界」を目指すとの共通の決意を示し、世界に発信した意義は大きい。
これを理想に終わらせず、実現に向けられるか。岸田文雄首相ら各国のリーダーは、重い責任を負うことになる。
広島市で開催された先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が21日、閉幕した。
首脳声明では、「核兵器のない世界」という究極の目標に向けて、現実的で実践的、責任あるアプローチを取ると打ち出した。
G7首脳は、平和記念公園内の原爆資料館を史上初めて、そろって訪問した。被爆者とも初対面し原爆の惨禍を聞いた。
核兵器を保有する国の首脳が、核がもたらす惨状に直接触れたことを、核廃絶に向けた原動力にしなければならない。
世界は軍拡の様相を色濃くしている。米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)は存続の危機にある。中国は核弾頭の大幅な増加を図っている。
そうした中で、「核軍縮に関する広島ビジョン」を発表したことは一つの成果と言える。
しかし、G7側が保有する核兵器に関しては「防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止する」と、核の抑止力を正当化した。
日本周辺の安全保障環境は、中国の海洋進出や北朝鮮の度重なるミサイル発射などで厳しさを増しており、日本は米国の「核の傘」に頼っている現実がある。
とはいえ、核抑止を認める内容に、被爆者から「廃絶にはつながらず、サミットの広島開催の意義が薄れた」と落胆した声が上がったことは十分に理解できる。
サミットの後半で、ロシアが侵攻するウクライナのゼレンスキー大統領が対面で参加し、大きな注目を集めた。
G7はウクライナに対し、揺るぎない連帯を掲げ、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くとの決意を示した。
対ロシア制裁を強化し、制裁回避防止への取り組みを強化することでも一致した。
ゼレンスキー氏も原爆資料館を見学した。演説で、ロシアの攻撃を受けたウクライナのまちの風景は「資料館で見た広島の写真と似ている」と語った。
被爆地・広島で訴えることには、核の威嚇を続けるロシアのプーチン大統領を大きくけん制する狙いがあるとみられる。
ウクライナは近く反転攻勢に出るとみられており、ゼレンスキー氏の来日はそのための外交上の総仕上げとの見方もある。
G7や、インドなどロシアに中立的な立場の国も多いグローバルサウスの国と面会し、支持を取り付けたい狙いがあったのだろう。
実際にバイデン米大統領は、ゼレンスキー氏と会談し、米国製F16戦闘機の供与を容認する方針を説明した。
バイデン氏は記者会見で、F16戦闘機をロシア領土への攻撃に使わないという保証をゼレンスキー氏から得たと語ったが、こうした方針がロシアを刺激したことは間違いない。
注目されるのは、ロシアとのつながりが深い中国の対応だ。
岸田首相は、中国に対し「ウクライナ情勢を含め、国際的な課題について責任ある行動を取るよう求める」とした。
グローバルサウスとG7との連携実現にも中国の影響は大きい。広島サミットが分断から協調へと向かう転機になるか、G7の真価が問われる。
