増税議論を切り離したままでは安定財源を確保できる見通しが立たない。防衛費の規模が適切かどうかを含め、国民の納得がいく議論が尽くされたとは言い難い。

 衆院本会議は23日、防衛費増額の財源を確保する特別措置法案を、与党の賛成多数で可決した。

 岸田文雄首相が昨年末、防衛力の抜本的強化のために、2023年度から5年間の防衛費を総額43兆円程度とする方針を決めたことを受けた法案だ。

 国有財産の売却などによる税外収入をかき集めて「防衛力強化資金」を創設することが柱だ。

 23年度予算に計上した4兆5919億円の税外収入を、複数年度にわたって防衛費に充てる措置を盛り込んだ。

 政府はこれに歳出改革、決算剰余金を組み合わせて防衛財源を捻出し、それでも足りない部分を法人、所得、たばこの3税の増税などで確保するとしている。

 しかし、増税は実施時期が未定で、与党内にも異論が強く法案に盛り込んでいない。

 増税以外の財源も、想定する金額を実際に確保できるか不透明だ。歳出改革の具体的な中身も示されていない。

 税収の上振れや予算の使い残しである決算剰余金は、その時々の経済状況に左右される。

 国債発行にもつながり、野党は実質的な「隠れ赤字国債」として、将来世代の負担になりかねないと指摘している。

 立憲民主党などは、塚田一郎衆院財務金融委員長(比例北陸信越)の解任決議案、鈴木俊一財務相の不信任決議案を提出して揺さぶりをかけた。

 衆院通過は与党が想定した日程から大幅にずれ込んだが、決議案はいずれも否決された。

 増税では、付加税として所得税に1%を上乗せする。その分、東日本大震災の復興特別所得税の税率を1%引き下げる。

 復興財源の総額を確保するため課税期間を延長するものの、被災地の復興への影響が懸念される。納税者の負担も増える。

 財務金融委員会が地方公聴会に準じる会合の開催を決めたのは当然だ。被災者の声にしっかり耳を傾けるべきだ。

 共同通信社が実施した世論調査では、防衛力強化のための増税方針については、80%が「支持しない」とし、岸田首相の防衛力を巡る説明に88%が「十分でない」と答えている。

 反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など安全保障政策の転換を含め、防衛を巡る問題は、今国会の最重要テーマであり、国民の理解が深まる議論が欠かせない。

 法案は24日に参院で審議入りする。国会は会期末まで1カ月を切ったが、「成立ありき」で審議を進めてはならない。改めて熟議を重ねてもらいたい。