懸念されていた個人情報流出につながるトラブルが現実となった。国民の不信と不安の解消に向けて、政府は総点検を徹底して行わなければならない。

 マイナンバーカードを巡るトラブルが全国で続発している。

 コンビニで住民票の写しを受け取るサービスで別人のものが交付されたほか、新潟市などでは登録を抹消したはずの印鑑登録証明書が誤交付された。

 カードと一体化したマイナ保険証に別人の医療情報がひも付けられるミスも約7300件あった。医療保険を運営する健康保険組合などによる誤登録で、マイナ保険証の利用時に別人の情報が閲覧できる状態だった。

 カード所持者がナンバーと公金受取口座をひも付ける手続きで、誤って他人名義の口座が登録されるケースも確認された。

 原因は、登録時の人為的なミスやシステムトラブルというが、個人情報の流出は、国民の財産や生命の安全に関わる問題である。政府は重く受け止めるべきだ。

 岸田文雄首相は24日の衆院予算委員会で「信頼回復に向けて政府一丸となって対応する」と述べた。国民の信頼は揺らいでおり、政府が総点検をした上で再発防止を図るのは当然だ。

 トラブルが多発するのは、政府がカード導入を性急に進めたことと無関係ではなかろう。

 カード交付は2016年に始まったが、なかなか普及しなかった。新型コロナウイルス禍を機にデジタル化の遅れが浮き彫りになり、政府は行政のデジタル化を狙い、カード普及に躍起になった。

 買い物などに使えるマイナポイントを付与したほか、24年秋に従来の健康保険証を廃止しマイナ保険証に一本化する方針も決めた。カード取得を事実上義務化する施策を押し進めた。

 カードの交付枚数は急伸し、21日時点で8996万枚となったものの、政府主導のスケジュールによって、自治体やシステム会社などは多忙を極めた。

 トラブルを想定した点検や、登録内容の確認に充てる時間は十分だったか疑問がある。

 介護を受けている高齢者や障害者といった生活弱者にも目配りした制度設計かどうかも懸念される。改めて課題を洗い出した上で、再チェックしていくべきだ。

 政府は今国会に、カードの利用範囲を行政書士や美容師などの国家資格の手続きに広げることを盛り込んだマイナンバー法など関連法改正案を提出している。

 だが、トラブルが頻発する中での使途拡大では、新たなトラブルを招きかねない。

 国民の信頼がなくては、どんな制度も利用されず、絵に描いた餅になる。政府は慎重に対応して十分な再発防止策を講じ、国民に丁寧に説明していく責務がある。