避難計画の実効性の判断に踏み込まず、訴えを門前払いにしたも同然といえる。再稼働が来年に迫る中でなお残る地域の不安が置き去りにされたことは残念だ。
東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)の立地地域の住民が、重大事故時の避難計画に不備があるとして、東北電に2号機の再稼働差し止めを求めた訴訟の判決で、仙台地裁は請求を棄却した。
判決は、原告側が事故の危険性を具体的に立証しておらず、請求の前提を欠くとし「差し止めは認められない」と断じた。争点だった避難計画の実効性は「判断するまでもない」と一蹴した。
原告側は判決を不当とし、控訴する方針だ。
2号機は2011年の東日本大震災で停止し、24年2月の再稼働が予定される。東北電は計画通りの再稼働を目指しており、稼働すれば震災後、被災地で初となる。
女川原発は人口密集地や離島、半島など複雑な地形の中にあり、避難計画通りの避難が実現可能か懸念されている。
訴訟では原告側が、放射性物質による汚染状況の検査態勢や、避難バスの確保など具体的な情報公開請求を重ね、計画通りの避難はできないと主張した。
住民避難の難しさは東京電力福島第1原発事故で露呈している。避難計画の実効性が疑われる中で再稼働が進むことに住民が不安を覚えるのは当たり前だ。
しかし判決は、避難計画への判断を避け、原告側の不安に向き合う姿勢を示さなかった。
気になったのは、判決が重大事故が起きる可能性を住民側に立証するよう求めた点だ。
原発訴訟に詳しい専門家は「地震・津波の発生や規模などの具体的危険は誰にも予測できず、住民らによる立証は困難だ」と指摘する。安全性の立証責任は事業者側にあるとの主張もある。
判決は、仮に避難計画に不備があっても、被ばくの危険など「人格権侵害の具体的な危険があると認められない」と結論付けた。
原発事故の危険性や、避難計画の重要性を理解しているか疑問だ。福島事故の教訓を十分に踏まえた判断といえるか。
運転差し止め訴訟は東京電力柏崎刈羽原発でも続いており、女川訴訟と同様に、避難計画の妥当性が争点の一つになっている。
原発の安全性を巡る県独自の「三つの検証」では、「避難委員会」が安全な避難方法について検証し、県に報告書を提出したが、現状の避難計画の実効性に関しては評価せずに議論を終えた。
昨年12月の大雪では柏崎市の国道などで立ち往生が発生し、重大事故と荒天が重なった場合の避難の困難さが浮き彫りになった。
実効性のある避難計画か、実態に即した検証が不可欠だ。訴訟の行方も注視する必要がある。