鉄道は沿線住民の通学や通院などを支える大切な交通手段だ。大規模災害などの際には道路以外の輸送ルートとしても機能する。
昨年8月の豪雨で被災し、一部区間の不通が続くJR米坂線について、JR東日本や県、沿線自治体にはまず復旧に向けた論議を進めてもらいたい。
JR東は、坂町(村上市)と米沢(山形県米沢市)を結ぶ米坂線の復旧に約86億円の工費と約5年間の工期を要すると発表した。
鉄橋崩落や土砂流入などで計112カ所が被災した。坂町-今泉(同県長井市)の約68キロは代行バスが走る。復旧工事は未着手だ。
復旧に関し、花角英世知事は「鉄道としての維持が大原則だ」と述べた。復旧と、赤字路線の存廃を含めた在り方の議論は分けて考えるべきだとの認識を示した。
山形県の吉村美栄子知事は試算額について「大きな額だ」と述べた上で「まずは復旧の線で取り組む。鉄道は大切な公共交通機関だ」と存続の意義を強調した。
両県知事が復旧を第一としたのは、住民目線からすれば当然だ。
だが、簡単ではない。
JR東の深沢祐二社長は「費用が非常に大きい」として費用負担の在り方や路線の持続可能性を地方側と協議したい考えを示した。
被災した鉄道の復旧費は原則、事業者が2分の1、国と地方が各4分の1を負担する。
鉄道事業者が復旧に二の足を踏む背景には、工費負担だけでなく復旧後の採算面がある。全国的に被災した鉄道が復旧せず、バスに転換する事例が相次いでいるのは、これらの事情のためだろう。
2011年に被災した只見線が昨年全線復旧できた一因には、自治体が線路を維持管理し、JRが運行を担う「上下分離方式」で事業者負担を減らしたことがある。
こうした手法も参考の一つにはなる。ただ、財政状況の厳しい地方側にとって軽い負担ではない。
地方での鉄道の経営難を踏まえた移動手段の確保策を探るため、今国会で地域公共交通再編に向けた関連法が成立した。
国は、鉄道存続かバスなどへの転換かを議論する場となる「再構築協議会」制度を導入した。事業者か自治体の要請があれば国が協議会を設置することになる。
地元との合意を条件に、国の認可なく事業者が運賃を値上げできる仕組みもできる。地方が鉄道存続を求めた場合、事業者が大幅値上げを示すことが想定される。バス転換への誘導も考えられる。
沿線には、乗降地点を増やせるなどの理由でバス転換を望む人はいる。だがバスになっても、利用者が少なければ、いずれ同じ理由で存続危機に陥りかねない。
鉄道は廃線と決めてしまえば、復活はほぼあり得ないだろう。
沿線住民や両県民とともに慎重に方向性を探りたい。
