衛星打ち上げと称したところで、平和と安全を脅かす暴挙にほかならない。軍備増強に突き進む北朝鮮の姿勢は看過できない。
北朝鮮の朝鮮中央通信は31日、国家宇宙開発局が、北西部の東倉里(トンチャンリ)から軍事偵察衛星を打ち上げたと報じた。明確に軍事目的を掲げた衛星は初めてだ。
日本政府は、沖縄県を対象に全国瞬時警報システム(Jアラート)で北朝鮮がミサイルを発射したもようと速報した。
国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議は「弾道ミサイル技術を使った全ての発射」を禁じており、衛星打ち上げも決議違反に当たる。日本政府が厳重に抗議し、強く非難したのは当然だ。
朝鮮中央通信はロケット2段目のエンジン点火で異常があり、朝鮮半島西方の黄海に墜落する「事故」が起きたと説明し、失敗を認めた。可能な限り早期に2回目の発射を断行すると主張した。
だが「重大な欠陥」だといい、再打ち上げがいつかは不明だ。
日本政府は、自衛隊による迎撃態勢を維持している。米韓と連携して情報収集し、分析と警戒監視に当たってもらいたい。
北朝鮮はこれまでに、米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)を既に開発したと主張してきた。
今回、通告通りに軍事衛星を打ち上げたのだとすれば、遠方を監視できる能力の獲得を内外に示す狙いがあるのだろう。
偵察衛星として実際に運用できるようになると、核やミサイルといった軍事力の運用を補完し、安全保障上の脅威になる。
軍事的な緊張を高めることは避けなければならない。国際社会が連携し、北朝鮮への働きかけを強めていく必要がある。
注意したいのは、日米韓に対する北朝鮮側の姿勢に、違いが見えたことだ。
日本には発射に関して、推定される残骸の落下予測地点と打ち上げ時期を直接、前もって知らせる異例の対応を取った。
日米韓で展開している合同軍事訓練に対しては、米韓のみを非難し、日本には触れなかった。
こうした言動は、敵対する陣営の一部にだけ融和姿勢を見せ、離間を図る常とう手段にも映る。
北朝鮮による拉致問題を巡っては、岸田文雄首相が「日朝首脳会談実現のため、私直轄のハイレベルで協議を行っていきたい」と述べ、意欲を強調している。
北朝鮮の外務次官は、日本が態度を変えれば「両国が会えない理由はない」とし、近年言及しなかった対話の可能性に触れた。
しかし衛星発射への非難を逆手に取り、日本の態度硬化で拉致問題進展が困難になったと印象づけようとすることも考えられる。
政府は北朝鮮の意図を慎重に分析して行動する必要がある。