聞こえのいい対策ばかりを並べ、「痛み」を伴う負担の説明を避けるのでは無責任だ。政府は長期的な財源確保策を具体的に示さなければならない。

 政府が「次元の異なる少子化対策」の素案を公表した。児童手当の所得制限完全撤廃や、育児休業給付の増額などを盛り込んだ。

 2024~26年度を集中対策期間とし、年3兆円台半ばの追加予算を投じる。当初は約3兆円だったが、直前の岸田文雄首相の指示で約0・5兆円を上乗せした。

 財源については、歳出削減のほか、企業や国民が負担する「支援金制度」を設け、28年度までに安定的に確保するとした。

 子ども関連予算倍増は、30年代初頭までに実現を目指すと明記した。不足分は当面、借金であるつなぎ国債の形式を想定する「こども特例公債」を発行して穴埋めしていく方向だ。

 しかし、裏付けとなる財源確保の具体策には触れなかった。

 首相はこれまで、予算倍増に向けた大枠を示し、6月に策定する経済財政運営の指針「骨太方針」に反映させるとしてきた。

 だが財源の詳細は年末に先送りされ、批判が出るのは当然だ。

 首相は「国民に実質的な追加負担を求めることなく対策を進める」と述べたが、そうだろうか。

 政府が財源捻出の柱に据える「支援金制度」は、全国民が原則加入する公的医療保険に国民1人当たり月500円程度を上乗せして徴収する案が浮上している。企業も同様に負担する。

 政府は「社会全体で支え合う必要がある」として理解を求めていく考えだが、賃上げの流れに水を差すとして経済界や労働団体の反対論は根強い。

 医療分野のお金を回すことに対し「目的外使用だ」との批判も上がっている。

 政府には、少子高齢化による保険料の伸びを歳出削減で抑制し、支援金の上乗せ分を相殺するとの算段もあるが、具体的な削減内容は示していない。

 24年度は診療報酬、介護と障害福祉サービスの価格が同時に見直される年で、医療界などは社会保障が歳出削減の標的とされる可能性があるとして警戒している。

 政府が財源として保険料に目を付けたのは、増税論議を避けるためだとの指摘もある。

 痛みを詳細に示さない理由が、衆院解散・総選挙を視野に、国民の批判を回避するためだとしたら極めて不誠実だ。

 22年の人口動態統計(概数)では、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は1・26で、21年を0・4ポイント下回り、過去最低となった。

 子どもを安心して産み、育てられる社会を築くために「異次元」を掲げる政府は、対策にもっと真摯(しんし)に取り組む必要がある。